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短編/外伝集
雪解けの後に

雨は苦手だ。雨は見ていると悲しくなる。
きっと、十一年前…自分が父から受け取ったロケットペンダントの写真を抉り、記憶を無くした時…大雨に打たれていたからだろう。

大切な記憶を逃避の為に無くした自分を、雨は責めるように打ちつけていた。
雨は冷たく降り注ぎ、触れるもの全てを同じ温度にする。冷たくしていく。
カロレスの身体も酷く冷たくなっていた。もしあの時、リウェルゥが手を差し伸べてくれなかったら…自分はあそこで朽ち果てていただろうとカロレスは思う。

「ルー」
燐火が再び声を掛けてきた為に、カロレスは空を見上げるのを止める。その間も、雨にその身を変えつつある雪は降り続けて、三人の身体を冷たく濡らした。

「今日は町に着いたら、何か温かいものでも食べようか。…ねぇ、カイ」
身体、すっかり冷えちゃったし。
そう言って肩を竦める燐火に、そうだな、と返すカイレン。
「俺も大分身体が冷えた。…雪の大陸でもないのに雪が降るとは思わなかったな」
過去、故郷で雪が降った時は、そんな物珍しさに目を輝かせていたけれど。成長した今はすっかり寒さにやられていた。何となく物寂しさを覚える。

「そうと決まれば、ルー、カイ、早く行こう」
言い、燐火は歩き出す。頷いて共に足を踏み出すカイレンは、足を止めてこちらを見ていたカロレスを振り返る。
「ルー、どうした?」
「……いや」
カロレスはふっと笑みを零し。

「寒いのは確かに苦手だけど。…ひとりじゃないならいいかなって、今何となく思ったんだ」
「…そうか」
それは良かったと、カイレンは僅かに頬を緩める。

冷たい過去の後に、温かい未来が。
雪解けの後に暖かな春がやってくるように、自分達でそんな日々を紡げたら。

そんな未来を創れたらいいと、三人は心をひとつにそう思った。



end.




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