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短編/外伝集
雪の記憶


「雪だ」

カロレスの声につられて足を止めたカイレンと燐火は、共に空を見上げる。
星が瞬く夜空から落ちてくるそれは、まるで星のかけらが降り注ぐようだ。

「…雪か…」
カイレンは呟き、かつて弟も含め、皆で雪遊びをした事を思い出す。
「雪と言えば、誰が一番大きな雪だるまをつくれるかって競争したよね」
同じ事を思い出したのだろう。燐火が過去の話を持ち出して来る。そこには過去に対する悲哀などはない、ただ温かい懐古のみがあった。

「でも、あの勝負は結局引き分けになったよね。カイが滑って転んで、雪だるま倒しちゃったから」
「燐火はそんな俺を笑ってるだけで心配してくれなかったよな…」
目を細めるカイレンに、燐火は悪びれた様子もなくあはは、と笑う。

「あの時は…って、ルー?」
燐火はぼうっとした様子で空を見上げるカロレスに気付き、名を呼ぶ。肩を軽く叩かれてようやく我に返ったカロレスは「ごめん」と苦笑して。
「雪に見とれてたよ」
「本当?」
「…嘘かも」
燐火の問いに、カロレスは苦笑を深める。

「皆の事を少し思い出してた。スキルやレイサーが、俺達八人をモデルにした雪うさぎをつくったりしてたんだ」

少しだけ申し訳無さそうに言ったのは、自分だけが同じ記憶を思い出さなかったからだろうか。
けれど、それも仕方ないだろう。彼にとっては、ついこの間まで翠達と暮らしていた四年間の方が記憶に新しいのだから。

「…ルーは、冬は熱を出して寝込んでた日も多かったな」
「うん。だから、あまり冬は好きじゃなかったな」
皆が外にいて。笑い声が聞こえて。寂しい日が続いた。唯一嬉しかったのは、その間は父がずっと傍にいてくれる事だけ。
…カロレスは自分がいない時はあんな風に笑うんだ、とまざまざと見せつけられている気分にもなった。

「いや…冬、じゃないな。寒いのが、冷たいのが俺は好きじゃないかもしれない。雪を見ると思い出す記憶に翠達との日々が無ければ、今よりもっと好きじゃなかっただろうな…」
言い、カロレスは二人から視線を外して再び空を見上げる。降り続ける雪に、水のような冷たさが混じる。

「…雨。雨はもっと苦手だ」
雪から雨へと変わりつつある空模様に、カロレスは睨みつけるように目を細める。誰に聴かせるでもない、喉の奥底から出したようなその小さな呟きは、しかし彼等以外に人気のないこの場に響いた。



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