短編/外伝集 むかしむかしの、おとぎばなし わるものにさらわれたオヒメサマはいのりました。 「だれか、だれか、たすけてください」 ずっとずっといのりつづけました。 「だれか、だれか、たすけてください」 そして、ついにオヒメサマのいのりはとどいたのです─。 「オヒメサマを助けたのは、白馬に乗ったオウジサマ…」 翠は呟いた。 呟くのは、昔大好きだった絵本の物語。 ストーリーは、怪物にさらわれたお姫様が、白馬に乗った別の国の王子様に助けられるという、ありふれたもの。 それでも、翠はその絵本が大好きだったし、今でも一文一文を空で言える程だ。 …翠は、昔の自分は所謂『お姫様願望』というものが強かったように思う。 オヒメサマのピンチに駆けつける、白馬に乗ったオウジサマ。 ─―そんな人がいるなんて、オヒメサマは羨ましいな。 自分にもそんな人が…オウジサマがいたらいいのにと、絵本を読む度にそう思っていた。 …挙げ句の果てには、オヒメサマに自己投影しながら読んでいた時もあった。 (……恥ずかしい) その時のことを思い出すと、顔から火が出る程恥ずかしいが、憧れていたのは事実。 自然と赤くなっていく顔の熱を逃がそうと、大きく深呼吸をした。 何度かそうしている内に、ふっと思い出した。 翠は泣いていた。 誰か、誰か、助けて。 一人、狭い部屋の中で泣いていた。 そんな時、彼は現れたのだ。 「あなたが、翠さんですね」 「…あなたは…?」 「俺はカロレスっていいます。あなたを助けに来ました。…さぁ、行きましょう」 あの時の翠にとって、彼は白馬に乗ったオウジサマだった─。 カロレスはお人好しで、困った人を放っておけない性格だ。 あの時、狭い部屋の中で泣いていたのが翠でなくとも、彼は同じように助けていただろう。 …それでも、彼はオウジサマなのだ。 「翠さん、大丈夫かい?疲れてないか?」 ─例え、彼の中での自分が『仲間の一人』でも構わない。 「いいお父さんじゃないか」 ─あの時も今も、彼の考えていることがよくわからない時があるけれど。 「俺のこと、カロレスって呼んでくれないか。…俺も、翠って呼びたいから」 思い出すと、再び顔に熱が籠もる。 が、今度は熱を逃がそうとはしなかった。 先程のように恥ずかしいだけではない、何となく嬉しい気持ち。 …いつもは恥ずかしくてこんなこと言えないけれど。 翠は呟いた。 ─私にとっての、オウジサマ。 END. [戻る] |