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短編/外伝集
付き合いの長い二人
──ここの所、塑羅さんの元気が無い。
一週間前まではちょくちょく散歩に出ていたのに、最近は自分の部屋に閉じこもってばかりで、部屋を出るのは食事とお風呂の時間くらい。
その食事の時間も、ぼーっとしてることが多く、会話に参加することは殆ど無い。
…こういう時の塑羅さん、何か悩み事があるんだ。
何となく、解る。

…とは言っても、塑羅さんを元気にするために自分がどうすればいいのかは解らずにいた。

自分の部屋で一人、そんなことを考えていたら、翠さんから買い出しを頼まれた。
さらに、塑羅さんも一緒に連れて行って欲しいとのこと。
翠さんもカロレスさん達もあまり口に出さないだけで、最近の塑羅さんの様子には気付いているんだ(レナシス君は前に調子が狂うとぼやいていたし、スキルちゃんやレイサー君は食事を終えて部屋に戻る塑羅さんをよく心配そうに見つめている)。

…さっき、塑羅さんを外出に誘ったけれど、断られたらしい。
それじゃあ僕が誘っても駄目なんじゃ…。
僕がそう言うと、翠さんは優しく微笑んで。
「カロレスが言ったの。『リトなら、きっと大丈夫だ』って。私もそう思うわ。リトくんは塑羅くんと一番付き合いが長いし…」
確かに塑羅さんと一番付き合いが長いのは僕だけれど…。
大丈夫…なのかなぁ。

……ともあれ、外の空気を吸えば、少し気分も明るくなるかもしれない。
僕は翠さんと別れ、塑羅さんの部屋に向かった。


「塑羅さん。今…いいですか」
「………ん…」
微かに聞こえた声。
僕はゆっくりとドアを開けた。

塑羅さんはこちらに背を向けて窓の前に立っていた。
窓は開け放たれていて、そこから緩やかな風が入る。
「……リト、何の用」
塑羅さんは、普段被っている帽子をベッドの脇に置いて、背中ほどまである長い髪を風に遊ばせていた。
ゆらゆらと動く青は、まるで海のよう。
「あ、あの、塑羅さん…一緒に買い出しに行きませんかっ?」
僕は久しぶりに帽子を取った塑羅さんを見たせいか、何時もよりも何となく緊張した。

「…その買い物籠を見るに、リト一人で十分そうなんだけど。僕が行っても邪魔になるだけでしょ」
僕が持っている買い物籠は確かに小さく、深さもあまりない。
…って、僕が塑羅さんを誘っているのは、買い出しを手伝って欲しいとかそういう理由じゃなくてっ!
「違います!僕は塑羅さんと一緒に出掛けたいだけです!!」
「え……」

しーん。
この部屋を、沈黙が支配した。

…慌てて訂正したのはいいんだけど、何だか物凄く恥ずかしいことを言ったような…。
かあっと顔が熱くなる。
…どうしよう。この間。
あああ、塑羅さんも居心地悪そうにしてるよ……。

それからたっぷり間を置いて、僕はもう一度『一緒に買い出しに行きませんか』と誘った。
沈黙に耐えられなかったし、喋ることで顔に籠もった熱を吐き出せるような気がしたから。

「……今日という日に誘われたのも、何かの運命なのかな…」「え?」
「…何でもない。…うん、いいよ。一緒に行く」
やった!
「…何喜んでるの」
…あ、声に出してた。



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