[携帯モード] [URL送信]

赤イ花〜ひとひら〜
その罪は

(な……! ま、まさか…!!)

男は焦る。この得体の知れない、不気味な幼子は。よもや自分だけではなく愛する妻にまで、何かしらの害を成すのではないだろうかと戦慄したのだ。

「……だいじょうぶだよ。ボクが用があるのは――おじさんだけだから」

「…ひっ!!」

幼子の表情から笑みが消えた時、男の口から再び声だけが出た。身を震わす事、ましてやこの場から逃げ出すような事は赦されない。

「おかしい話だよね。おじさんは奥さんのことをすごく愛してるんでしょ?

なのに、人殺しなんてどうしてしたのかな。おじさんがそんなことをしてるって知ったら、奥さんはどう思うのかな?」


ゆっくりゆっくりと、幼子は男に歩み寄る。彼が一歩を踏み出す度、落ちているガラス片がひとつ、またひとつと割れていく。

「あいつ…は…!」

幼子の心を抉るような言葉に、男は様々な想いを去来させる。愛する妻とのはじまりや、生活していく上での苦悩、幸せな想い出、そして――…。


「……ったんだ…」

「え? なあに、もっと大きな声で言ってくれなきゃ聞こえないよ」

「…羨ましかったんだッ!!」


震えた声で、しかし血反吐を吐くような想いで、男は叫んだ。今までずっと感じていた想いを、目の前の幼子にぶつけるように。

幼子はその叫びに足を止め。無表情に男を見据えた。


「――…俺達には、子供が出来ないんだ。どんなに頑張っても、どんなに祈っても、全部徒労に終わった。

……そう。そうさ。俺は羨ましかったんだ!
俺達が子供が出来ずに苦悩してる中、目の前を幸せそうに通り過ぎて行く親子が!!

いたずらに性行為をして、子供を産んでおきながら身勝手に捨てる奴らが!!

俺は羨ましかった! なんでお前達は子供を授かって、こんなに心から望んでいる俺達には子供が出来ないんだと思った! 悔しかった、憎らしかったッ!!」


「だから――……殺したの?」


――幼子は、ただただ無感情だった。その顔も、声も、機械のように無機質で。凍てついた氷のように、冷たかった。


「憎かったから。悔しかったから。羨ましかったから……だから、殺したの?」

「……!! や…やめ…っ!!」

幼子は止めていた足を、再び前に踏み出す。男がその時感じたのは、本能的な恐怖だった。


「殺された方の気持ちを考えたことがあるの? 殺された方の傷みは? 残された方の悼みは?

なにかひとつでも、省みたことがあった?」

「…めて、くれぇっ……!」

涙がぼろぼろと溢れ出し、男の頬に幾重にも透明な道をつくる。
しかし幼子は、なおも無感情に事を運んだ。手にしていた大鎌を、頭上に掲げ――…。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……っ!!」


――…寸分の狂い無く、男の首目掛けて……振り下ろした。



[*前へ][次へ#]

7/8ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!