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element story ―天翔るキセキ―
彼女には甘い彼

「――しかし、毎度の事ながらシングの突拍子のない発言には辟易させられるな」
呆れたような声色。だが、口元は笑っていた。
「そういえばセイル、今度やる事考えてる?」
セイルは元々、友人と共に遊ぶなんてタイプでは無かった。
ロックやシングとつるむようになってからも、遊ぶ内容はシング(時々ロック)が言い出し、決めていたのだ。
本来遊ぶのが苦手なセイルが、一体何を自分達とやりたいと言い出すのか。
ロックは興味津々だった。

ロックの問いに、セイルは一瞬目を見開いたかと思えば、急に苦虫を噛み潰したような表情になり。

「……今から考える」

ああ、忘れてたんだ。
無愛想だと思われがちなセイルが、コロコロ表情を変えるのを密かに楽しみつつ。
ロックは「じゃあ、一緒に食堂まで行く?」と誘った。


「…リピート、そっちに来たか?」
「?うん、来たよ。エリィと一緒にお風呂入りに行った」
「そうか…あいつは、『エリィと風呂に入る』と堂々宣言して部屋を飛び出して行ったからな」
広々とした廊下を並んで歩きながら、セイルは話を切り出す。
ギルド内では基本的に男女別で部屋割りされているが、セイルとリピートは訳あって同室だ。
性格に全く共通点の見られない二人だが、何だかんだ仲良くやっている…らしい。
実際セイルはリピートと出会ってから、性格が丸くなったと思う(シングやアリア曰く、『セイルはリピートに甘い』。ロックも何となくそう感じる)。
リピートがギルドにやって来る以前は彼はどこかいつもピリピリしていて、今のように談笑など出来る雰囲気ではなかったからだ。

「…あいつは昨日の夜部屋に帰ってからもうるさかった。『エリィと友達になりたい』だの『友達になれたらどんなことして遊ぼうか』だの」
あいつの話に長時間付き合わされた。その時の事を思い出しているのか、セイルは額を抑え、疲労感たっぷりに溜め息をついた。
「…あ、でもちゃんと最後まで付き合ったんだ」
意外だ。例えばシングが夜中に絡んで来たって、セイルは一人で寝るだろうから。
ロックの言葉の意図を読んだのか、セイルは苦々しげに。
「……うるさくて眠れなかった。あいつの話を聞くのが、あいつを黙らせる最速最良の手段だと思っただけだ」
セイルはそう言って顔を逸らす。心なしか耳がほんのり赤く染まっている気がした。
(やっぱりシング達の言う通り、リピートには甘いんだなあ)
ロックは心中で零した。

「…ロック。お前、さっきから人の顔を見てニヤニヤと…。いい加減言いたい事があるならハッキリ言葉にしたらどうだ」
最初は大した事ではないと放置していたが、流石に何度もそれが続けば気になるというもの。
セイルは目を細めて、半ば睨み付けるようにロックを見つめた。

「えっ、僕そんなに変な顔してたの?!」
一方ロックはまさか自分がそんな顔を緩めているとは思いも寄らず、驚きに目を見開いた。
そんなロックの反応を予想していたのか否か、セイルは薄笑いを浮かべて「……無意識か。ある意味お前らしいが」と小声で言う。
…ロックとしては聞き捨てならない。主に最後のほうが。
「えぇっ…どういう意味!?」
「そのままの意味だ」
ロックの反応がよほど面白かったのか、セイルは今度は僅かに声を上げて笑った。
それはロックのような大人しい笑みでも、シングのような子供っぽい笑みでも無い。
自分の感情をセーブしようとしているが、耐えきれず口元から漏れ出てしまったような、そんな笑い声だった。




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あきゅろす。
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