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element story ―天翔るキセキ―
あからさま

外の空気を震わせる風に、ベリルは弾かれたように立ち上がり、窓から外を窺う。

そこには、思い描き望んだ通り。
『彼』が従える風の使い魔に乗って帰って来た、仲間達の姿があった。


「皆っ!」
「ベリル!」
慌ただしく家から出て来たベリルに、カヤナは喜びの声を上げた。
それに次ぐように、エルやタイガが再会の喜びを伝える。
「ベリルさん…ただいまです」
「お帰りなさい、エル…良かったわ、皆無事で…」
エルの身体をそっと抱いて、ベリルはようやく安心を得る事が出来た。

「ロウラは寝てる?」
「ええ、少し前に…明日起きたら、喜ぶわ。きっと」
その答えに、明日の朝の光景を想像したのだろうか。カヤナは弟の事を思い、ふっと笑みを零した。

「ベリさん、ただいまー」
「!! あ、え、ええ。お帰りなさい。…オブシディアン」
ひょいと顔を出して来たオブシディアンに、ベリルはあからさまに緊張した。
話しかけられた途端、思い切り肩を揺らして不自然な笑顔を浮かべる。
本人としては、緊張しているのはかなり隠しているつもりなのだが…。

「…あっ! 皆、お腹とか空いてない? 良ければ私がつくるけど…」
ベリル達のやり取りなど眼中に入っていないのか、さっさと家に入ろうとしているアッシュを視界の隅に捉えたベリルは声を上げる(その際、やはりあからさまにオブシディアンから顔を逸らした)。

ベリルの申し立てに、カヤナはとんでもないと首を振った。
「そんな、いいわよ。ベリルだってずっと起きてて疲れたでしょう?」
しかしそんなカヤナに対して、ベリルは笑顔で「大丈夫。心配しないで」と告げる。

「私に出来る事、少ないから。少しでも役に立ちたいの。…それに」
言葉を切り、ベリルは照れくさそうに頬を赤らめて。

「皆に会えたら、元気が出て来たの」

最終的にカヤナ達はその申し出に甘え、夜食を取る事にした。



「あの…タイガさん。食欲、ありませんか?」
「…ん、いや…悪い。そういう訳じゃないんだ」
まったく手が動いていない様子のタイガに、ベリルは心配そうに問いかける。
そんな彼女の心配を拭うようにタイガは笑みを浮かべ、目の前の食事に手を付けた。
「…」
二人のやり取りを密かに見ていたアッシュは忌々しそうに顔を歪め、すぐに食事を終えると何も言わずにさっさと自室に帰ってしまった。
「……」
アッシュの去っていった方とタイガを見比べて、エルは居心地悪そうに肩を竦める。
「エル、気にするな」
お前は何も悪くないんだから。そう言って、タイガはエルの頭を優しく撫でた。
「…はい」
頭を撫でられ、少し恥ずかしいのか。エルは僅かに頬を紅潮させながら頷く。けれど、やはり元気がないようですぐに俯いてしまった。

彼等のやり取りを解せないのは、この中で唯一事情を知らないベリルだけだ。
「ベリル。事情は後で話すわ。…シディが」
「え!?」
「え、オレ?」
カヤナの発言に反応したベリルとオブシディアン。
二人の返しはほぼ同時だったが、その顔や声に纏う感情は全く別であった。



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