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element story ―天翔るキセキ―
大丈夫と信じたい


――時刻はもう、夜中になっていた。

海にぽっかりと浮かぶ島、そこに生い茂った森林を進めば、見えてくるのは荘厳に大地を叩きつける滝。
目を凝らしても見えはしないが、その滝の裏側には隠された抜け穴のようなものがあった。

その中は、外観から想像出来るよりもさらに広く空洞化しており、至る所にエレメントクリスタルが群生していた。

…虹色の輝きに包まれるように、その空洞の中にはひとつの家が建っていた。
誰が建てたというのか、その大きな家は遠目には普通の木造に見える。
が、近付いてよくよく見てみれば、家は周囲のクリスタルと同じ輝きを宿し、ぼんやりとした光を常に放っている。
まるで現実のものではない夢幻で創られたような、そんな家だった。

「――…ふう…」

家には、その大きさに反するように二人の人間しかいなかった。
二人の内のひとり、ベリル・フローライトは、誰もいない閑散とした部屋で溜め息を吐く。
同居人の少年は、数時間前に床についた。
姉や皆が帰って来るまで起きていると豪語していたが、やはりまだ十三歳の少年だ。眠気には勝てなかったらしい。

逆に眠りにつけないベリルはずっと、もうすぐ帰って来る筈の仲間達を待ち続けていた。
(カヤナは大丈夫かしら…)
友人を思い、ベリルは自分の手元にあるものを見つめる。
それは魔道具――ベリルが一から造り上げた、カヤナ専用の武器であるチャクラムだった。
調整の為に預かっていたが、計画の予定が早まった関係でカヤナは武器を持たぬまま東ギルドへ向かう事になってしまったのだ。

カヤナは魔術を使えない。彼女の体内エレメントには、魔術を使えるだけの容量が無いのだ。
自分が造ったのは、そんな彼女の力を増強し、擬似的な魔術を使えるようにしたもので。
言ってしまえば、この武器を持たない彼女は今、非力である。

(…大丈夫。大丈夫よ、きっと)
不安な心に言い聞かせるように、ベリルは胸の上に置いた手をぎゅっと握り締めた。
(大丈夫…)
その後も留まるところを知らない不安感を消そうと、ベリルは何度もなんども心の中で『大丈夫』と繰り返す。

(…エルは…タイガさんやアッシュがいるなら大丈夫。きっと大丈夫…)
二人は強い。アッシュは暴走しそうで正直怖いが、タイガがいるなら身の安全は心配ない筈。
(リーブさんだって、大丈夫だわ)
彼はある意味一番危険な場にいると思う。けれど、カヤナ達のサポートがあれば問題ない筈だ。

(……)

と、そこまで考えて、ベリルはたったひとりを意識的に除外していた自分に気付く。
(…彼は…)
彼の事を考えると、ぎゅっと胸が締め付けられるのを感じる。
それは色恋におけるそれではない…と思う。
だってもしそうなら、こんな焦燥感に見舞われる訳はないだろうから。

「…大丈夫。大丈夫…」

弱々しくなっていく自分の声に、あわや心までも縮こまろうとしていた時。


――…外から、一陣の風を感じた。



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