element story ―天翔るキセキ―
ごめん、ね
エリィの問いに、ロックは大した衝撃は受けなかった。
寧ろ、――ああ、そうだよね。と思ったぐらいだ。
何も知らないエリィ。親も兄弟もいない彼女にとって、父親という存在は理解し難いものだという事は予想の範疇であったから。
しかし、今のロックにはなかなかちゃんと説明するのは難しい。
『――行って来るな』
「…っ」
…養父の事を思い出すと、すぐに目頭が熱くなる。きっとここにエリィがおらず一人だったら泣いてしまっていただろう。
「…ロック…?」
「ご…ごめんね…エリィ……っ」
慌てて笑みをつくるけれども、やはりすぐに強張って。
ひとつ思い出せば、堰を切ったように不安が溢れ出て来た。
養父はどうしているのだろうか。
重傷と聞いたが、怪我の具合は。
その傷はどうして出来たのか。
――…いつ、目を醒ますのか。
「…ふっ、ぅ…っ…」
思わずエリィから背を向け、ロックはぎゅっと目を瞑った。
涙が頬を伝い落ちた時、ロックは激しく後悔し、自分を叱咤した。
…シング達があんなに気遣ってくれたのに、それを台無しにして。
ダメだ。だから自分はダメなんだ。
あまりに弱くて、人に支えられないと立っていられない。
…いや、支えられていても、それはちょっとした切欠ですぐにぽっきりと折れてしまう程の貧弱さで。
――だから僕はいつまで経っても、養父さんの息子にふさわしくないんだ――…。
ふと、ロックは顔を上げる。
窓に映った自分は、思っていた以上に酷く、情けなかった。
「…ロック…」
一連のロックの挙動を、エリィはずっと見ていた。
目を離さず、まるで写し取るように。
「……」
ロックのしゃくり上げる声が最初より僅かに大きくなって来た時、エリィはそっと目を逸らした。
そして、小さな声で呟く。
「……ごめん、ね…」
その声は彼女自身にしか聞こえない程の呟き。静かに泣いているロックの耳にも、届かなかった。
けれど、もう同じ事をエリィは言わず。
ただ、自分の中にある何かを噛み締めるように、自らのペンダントを握っていた。
『――ギルドメンバー各員に告ぐ』
「!!」
また、計り知れない程の静寂が流れて。
それを突き破ったのはロックでもエリィでもない、ギルド全体に拡声された魔術師の声。これは先程リーブ達について行ったチーム『ミナヅキ』のリーダーのものたが…。
『我々は――あの断罪者に騙された。あれは偽物だったのだ!!』
「…え…!?」
興奮した様子で伝えられるのは、ロック達ギルドメンバーにとって驚くべき事実だった。
――結界の間に着いた時、結界の強化はリーブと断罪者が担当する為に、ミナヅキのメンバーは皆部屋の前で待機…もとい、いつ異常事態が起きてもいいように警戒を強めていた。
…しかし、いつまで経っても部屋から二人が出て来る様子は無い。
刻一刻と時間が過ぎて行き、いい加減不審なものを感じたミナヅキのリーダーが扉を開けた時…。
――結界の間には断罪者の姿はなく。
ただひとり、リーブのみが気絶して倒れていたという――…。
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