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element story ―天翔るキセキ―
優しい気遣い

「…ロック…」
リピートは何か言いたげだったが、言葉が見つからないようで俯いてしまう。
隣のイメリアも同じ様子で、いじいじと手遊びを繰り返していた。

「…此処に留まっていても仕方がないわ。…行きましょう」
「う、うん…」
イメリアはアリアの言葉に頷きつつも、ロックの方を向く。
そうしてほんの少しだけの間深呼吸をすると、意を決して口を開く。
「…き、きっと…ヴァルトル様、すぐに…元気になります。そう、信じてます…っ!」
その声は弱々しくも、普段のイメリアにしては力強さを感じるもので。
驚いたのか、アリアやセイルなどは僅かに目を見開いた。

イメリアはポニーテールがしなる程勢い良くお辞儀をすると、「アリアちゃん、お、お待たせ…」と声を掛ける。
それを皮切りに、アリアとイメリアは立ち去っていく。
アリアは立ち去る直前、ちらりとロックを盗み見たが、結局声を掛ける事は無かった。

「…俺にシングのような言葉は期待するなよ」
はぁ、と溜め息をひとつして、セイルはロックに話しかける。
「まぁ、今は…今出来る事だけ考えておけ。お前はあらゆる事を同時に考えて落ち込まずにいられる程、図太くないからな」
「ロック、がんばって…ですな。リピート頭良くないからそれしか言えないけど…いっぱい落ち込んでも、その後…また元気になって欲しいですな」
セイルの言葉を引き継ぐように、リピートが言葉を重ねる。

シング、イメリア、セイル、リピート…。
彼等の優しい気遣いに、ようやくロックは顔を上げた。
それでも、口は強張ったように動かなくて。頭が働かずに、言葉も思いつかなくて。
ようやく絞り出した言葉は、
「…ありがとう」
ありがとう、ただひとつだけだった。
けれどそんなロックに対し、セイルはぶっきらぼうに頷き、リピートは太陽のような明るい笑顔をくれる。
いつものように接してくれる二人に、ロックは感謝した。
――…また後で、シング達にもお礼を言おう。
そう心の内で決めながら、ロックはエリィの手を引いて自室へと歩み始めた。




部屋に戻ってからは、暫くお互い無言で思い思いの時を過ごしていた。
ロックは窓の前に立って外を眺め、エリィは自分のベッドの上に座ってぼんやりと。

「ロック」
ふと、エリィがロックに話しかけたのは、自室に帰ってからどれ位の時が経っていただろうか。ロックには解らなかった。

「…なに?」
自分でも解る程のぎこちない笑みを浮かべながら、ロックはエリィに問いかける。
…エリィは答えない。ベッドから投げ出した足をぶらぶらさせながら、視線をあちらこちらに動かしている。
その様子は、まるで逡巡しているようで。
どうしたのだろうとロックは思った。

おもむろにエリィが顔を上げる。その表情は無機質な人形のようで、しかし碧い瞳は僅かに揺れているように見えた。

「ロックは…今、かなしい?」



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