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element story ―天翔るキセキ―
自分が言ったように


東ギルド内は騒然としていた。
当然だろう、響界が襲われたというだけで驚愕だというのに、それに加えて自らのギルドマスターが重傷を負ったのだから。

ギルドの者達は皆、大広間へと集まっていた。
彼等の前に立っているのは、ヴァルトル不在の今ギルド代表となっているリーブ。それに、ひとりの断罪者だった。

断罪者は任務中、常に黒の仮面で顔を覆っている。
それは罪人を裁くという役柄上、『裁く対象に情を抱かない為』であるという。
白の外套と合わせて見るとアンバランスに見えるかもしれないが、これが断罪者の制服だ。

「リーブさんっ!」
リーブの話に耳を傾けていた人々は、その声に一斉に振り返る。
…シングに引っ張られる形で現れたロックの姿を認めた途端、さっと道を開けた。
「皆…その様子じゃあ、状況はまだ把握していないようだね」
リーブはシング達に簡潔に説明する。
緊急会議中、響界が何者かに侵入され。
侵入者の討伐に向かった断罪者達は皆手傷を追い、後から到着し侵入者と接触したヴァルトルが重傷を負ったという事を。

その説明に、ロックは身を震わせる。「養父さん…」と、力ない声で呟いた。
「ヴァルトルさんが…」
シングにとっても、その話は驚きを隠せない。
――ギルドマスターであるヴァルトルに、いや何より、自分の尊敬する人であるヴァルトルに傷を負わせる人間がいるなんて。

「…響界にいた断罪者らは全滅。皆命に別状はありませんが」
その時、リーブの説明を引き継ぐように口を開いたのは、彼の隣に立っていた断罪者だった。
無機質な印象を与える仮面のせいで実際はどうか解らないが、その声は思っていたより若く感じる。

曰く、この断罪者は任務の為に外へ出ていて、響界にはいなかったらしい。
「響界から連絡が入り、侵入者らがギルドマスター不在のギルドを襲撃する可能性もあるとの事。私は他の者より近い地点にいた為、一番にここへ到達出来たという訳です」
抑揚の無い声で、断罪者は淡々と語る。
そして、これからすべき事という命題を話し出した。

「私とリーブ様で、これから結界の間に向かい結界を強化します。あまり大勢で行動すると、いざ襲撃があった際に混乱を招くので…チーム『ミナヅキ』は我々に同行。後は各人自分の部屋で待機していて下さい。
しかしいつでも戦えるように準備は怠らないように」
そこまで話した時、ふいに断罪者は自分の外套から連絡用魔道具を取り出した。
「…はい。既に東ギルドへ到着。間もなく行動開始」
相手は響界の人間だろうか。断罪者は言葉少なに通信を終えると、「失礼しました」とやはり事務的な、抑揚の無い声で言った。

「それじゃあ彼が言ったように、『ミナヅキ』以外のメンバーは自室で待機してくれ。何があるか解らない、連絡用魔道具は肌身離さず持っていてくれ」
「はい!!」
各々は応え、すぐさま散開していく。

「ロック、…オレは元気出せなんて言わない。でも、ひとりで殻に閉じこもるなよ。
お前自身がヴァルトルさんに言ったように、エリィの傍にちゃんといるんだぞ。な?」
シングの声は穏やかで、かつ力強さを伴っていた。
正直言ってロックには余裕が無い。その為、声を出さず頷く事しか出来なかった。
しかしシングはその反応で良しとしたようだ。ひとつ頷き返し、ロックの肩を軽く叩いてから立ち去って行く。

「ロック、エリィ、セイルーっ!」
別れたシングの背がまだ見えている頃、三人の名を呼んで駆け寄って来たのはリピートとアリア、それにイメリアだった。
アリアとイメリアは同室の為、リピートはセイルを捜していたのだろう。




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あきゅろす。
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