[携帯モード] [URL送信]

element story ―天翔るキセキ―
アリア対策会議


「全く、喧嘩するなら人様に迷惑の掛からない場所でやれよな」
チームの連帯責任だと言って、自分もロック達に混じって頭を下げていたシングが口を尖らせる。
シングの言葉にも、セイルはふんと鼻を鳴らし、リピートは自分は被害者だと言ってのける。
そしてそれに対し被害者は自分だとセイルが反論、結局また口喧嘩に発展していた。
「はぁ…駄目だこりゃ」
「シング、ごめんね…元はと言えば僕が原因なのに…」
「ロックはいい奴だよなぁ、ちゃんと反省するんだもんなぁ」
それに比べてこの二人は、と言いたげにセイル達を一瞥。シングの視線になど全く気付く気配も無い二人に、再び溜め息を吐いた。


「…それで。お前の心持ちに変化は無いのか?」
ようやく不毛な言い争いを止めたセイルが、シングに問いかける。
「ん? アリアの事か? そうだなー、他に良い手が思いつかねーし。明日の予定は変わってないな」
それとも、セイルは何か考えでも?
シングの言葉に、セイルは眉を顰めて静かに首を振る。
「…考えるのは得意じゃない」
だからお前やロックに任せる、とセイルは言い、「だが」と付け加えた。

「やはり、難しいぞ」
チームとしての任務なら、アリアは基本的にリーダーであるシングに従うが。
今回はチームなど関係無い、完全に彼女自身の感情が頑なにエリィを否定しているのだ。
そんな彼女を説得して、しかも普段ですらあまり付き合ってくれない遊びに誘うだなんて…寧ろ成功する図が浮かんでこない。それは誰もが同じだろうとセイルは締めくくった。

「…うぅー…アリアはエリィのことを誤解してるですな」
エリィは危険なんかじゃないですな。リピートは拗ねたように言った。
「…うん……」
ロックも、エリィがアリアの言うような危険人物には思えない。
確かに膨大な体内エレメント量を有しているようだが、あの洞窟で自分達が助かったのはエリィがウンディーネを召喚したお陰だ。
自分の力について自覚が無いというなら、傍にいる人間が教えていけばいいのではないかと思う。
…アリアが聞けば楽観的過ぎると切り捨てられそうだが、ロックはそう思えてならなかった。

(…何より)
出会ったばかりの人を、あいつはこうだと決めつけて欲しくなかった。それが仲間であるアリアなら尚更。
ロックとしては、自分の事を『ギルドマスターの息子だから』と必要以上に持ち上げたり謙遜するような人とアリアを一緒にしたくないという気持ちも強いのだ。

「まー、何とかなるだろ。多分な」
「お前はいつもそうやって適当な事を…」
「お、そうだ。いざとなったらロックが泣き落とし作戦だなっ!」
「えぇっ!? 何で僕がそんな事!」
シングの酷い思いつき作戦にロックは非難の声を上げた。いくら何でもそれはないと思う。
「ロック…なきむし、なの?」
「違うよっ! やめてよシング、エリィに勘違いされちゃうじゃないか!」
「ロックは結構涙もろいですな」
「リピートっ!」
勘弁してくれと嘆くロックに哀れみの目を向けるのはセイルだけだった(向けるだけで助けてはくれないが)。
シングはロックの反応に「結構いい作戦だと思ったんだけどなぁ」と不満げだ。

「俺が見るに、アリアはロックに弱い。ロックが苦手とも言う」
「そんなはっきり言わなくても…」
初めて会った時からチームメイトになって暫くの間、ロックはアリアに苦手意識を持っていた。
素晴らしい成長を遂げる魔術師として周囲に期待されているアリアと、魔術師としての才能は皆無と言って良いだろう自分とでは住む世界が違う。だから苦手だった。
けれど共に過ごしていく内に、アリアはアリアでお人好しな所があったり、面倒見が良く優しい面もあると気付いてからは変わっていった。

アリアがロックに苦手意識を持っているとすれば、距離を計りかねているというか…『自分とはあらゆる面で違い過ぎる』ロックに、どう接していいのか未だに解らないと言った所だろうか。

「ロックがこう…涙をポロリしちまえば、アリアも狼狽えて折れてくれそうだと思わないか?」
「お、も、わ、な、いっ! やめてよ本当に!」
「あー…悪いワルい。…悪かったって」
心の底から謝っているように見えないシングの態度にロックは精一杯睨みを利かせ、ようやくちゃんとした謝罪を言わせる事に成功した(当のシングは苦笑しているが)。

「もう…」
「いや、悪かったよ本当。ロックの反応がいちいち面白いからつい、な」
「同感ですなっ」
同調するリピートと顔を合わせ、シングは愉快そうに笑い合う。
ロックは口を尖らせたが、それ以上は何も言わなかった。
本気で怒っている訳では無いし、いつもの事だから。



[*前へ][次へ#]

15/53ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!