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element story ―天翔るキセキ―
友達という存在


とりあえず準備は明日から。…明日、アリアと話してからだ。
「オレ達がアリアと話してる間、セイルとリピートは何かやりたい事を考えておいてくれな」
「りょーかいですな!」
「……」
元気いっぱいに返事をするリピートとは対照的に、セイルは不満そうな顔だ。
「特に無い、はナシだぞ」
彼の言いたい事を見越して、シングが釘を刺す。
「……後で文句を言っても知らんぞ」
嫌々だがセイルは承諾した。



それぞれが部屋に戻り、それぞれの時間を過ごし始める。
シング達はどう思っているか解らないが、ロックはあまり自分の部屋に居るのは好きでは無かった。
エリィが加わる今までずっと一人だったし、一人で居ると友達が居なかった頃の事を思い出すからだ。

ロックは自分のベッドに腰を下ろし、部屋を見回す。
一通りの家具は揃っているし、殺風景な訳でもない。
しかし、ロックから見てこの部屋には空虚感が漂っているように思えてならない。
それは昔の事が有るからだろうか?

(昔は…ここに閉じこもっていたくなくて)
日中はいつも部屋を出て、散歩をしたり、資料庫でひたすら本を読んだり、庭でぼうっとしていた。
…一人で。

養父はとても優しい人だけれど、同時にとても忙しい人だから、あまりロックは構って貰えずにいた。
さらに、義理とは言え『ギルドマスターの息子』という称号がついて回り、周囲の人間はロックに近付こうとしない。
交わす言葉は中身の無い挨拶、ただそれだけだった。

そういった環境が、元々気弱だったロックの性格をさらに暗くしてしまった。
同い年くらいの子供は少しは居たけれど、どの人も近寄り難い気がした。
だからロックは九歳の頃まで友達はひとりも居なかった――…。


「……ロック?」
「…あ。ごめん、どうしたのエリィ?」
いつの間にか隣に座っていたエリィに服の裾を引っ張られ、ようやくロックは追憶の海から上がる。
「…どうしたの?」
「え」
どうやら、『どうしたの』はこっちの台詞だ、という事らしい。
それに気付いたロックは曖昧に笑って。
「…ごめん。ちょっと、昔のことを思い出して」
「…むかし?」
「うん。僕が今よりも小さい頃のこと」
「どうして?」
「どうして、って…」
ロックは言葉を詰まらせる。
自分の小さい頃の話など、聞いても面白い話ではないからだ。
「ロック…?」
「ああ…ごめんね。…僕の昔の話なんて、聞かない方がいいと思うよ。何も面白い事はないからね…」
「…そう、なの?」
…何だろう。いつになく質問責めを受けているような気がする。
ロックは疑問に感じつつ、エリィの問いに答えた。
「…うん。だから…僕から言えるのはたった一つだけ」
言葉を切り、鬱々とした空気を切り替えるように息を吸う。
エリィはロックの一挙一動から目を離さず、ロックが口を開くのをじっと待っていた。

「…僕のことを『ギルドマスターの息子』として見ないで、初めての友達になってくれたシングには…とても感謝してる。昔のことでつまらなくない話は、それだけ」
一年後にギルドにやってきたセイルと引き合わせてくれたのもシングだったし、チームメイトとなってからもあらゆる面で彼には世話になっていた。

ロックにとって、シングとの出逢いは、短い人生の中でのターニングポイントだったのだ。




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