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element story ―天翔るキセキ―
初めての意思

皆考える事は同じだろう。セイルもリピートも苦い顔をしている。
エリィもエリィで何か考えてはいるのか、神妙な表情をしていた。

「シング…やっぱり、アリアは難しいんじゃないかな。色々と…」
「ん〜…そうだな…とりあえず今日は放っておいて、明日三人で話しに行くか。どうせこの分じゃ明日の朝も会ってくれるか微妙だしな」
普段はチームメンバーで集まって食事をしている。が、明日は何だかんだと時間をずらされてしまうような気がしてならない(恐らく、今日の夕食もそうだろう)。
なので今日はアリアの好きにさせておく。
けれど明日は自分達が食事を終えて暫くしたら、アリアの部屋に直接向かおうとのことだった。

と、そこまでで浮かんだ疑問がひとつ。
「ねぇシング、三人って…?」
「オレだろ、んで次にロック、そんでもってエリィ」
シングはご丁寧に指で指し示してくれたわけだが、ロックはその言葉に驚きを隠せなかった。
「エリィも?!」
「何だよ。そんなに驚くような事か?」
「だ、だって…」
エリィに警戒心や敵意を抱いているアリアに、昨日の今日で会わせていいものだろうか。
ここはひとまずエリィ以外のメンバーで説得した方が得策ではないか。

「ロックが言いたい事も解るけどな。…でも、例えオレやお前だけで説得してアリアがそれに応じたとしても、結局二日後には会う事になるんだぜ? だったら最初からエリィを交えた方がお互い親睦を深める取っ掛かりになるかもしれないぞ」
「…親睦を深めるどころではないかもしれん…いや、その可能性の方が格段に高い」
ぼそりとセイルが呟く。正直ロックも同意見だった。
「んー…」
シングも黙り込み、ついに話が停滞する。誰もが頭を悩ませていた。

ロックは思う。
(やっぱり、無理なんじゃないかな…)
さっきはエリィにあんな事言った癖に。
心の奥底で、もう一人の自分がそう呟いた気がした。

その時。

「…ねえ、…わたし、話しに行ってみたい」
「えっ。どうして?」
エリィの発言に、思わず問いかけてしまった。思い掛けない発言に驚きを隠せない。
エリィはロックの言葉に複雑な表情をしつつ、
「…よくわからない。…けど、アリアからは…まだ名前しか…きけてないから」
たどたどしく、しかしハッキリとエリィは『自己主張』した。
「エリィ…」
それは喜ばしい事の筈なのだが…ロックはそれでも尚迷っていた。今のアリアに会わせていいものかと。

「ロック、エリィは行きたいって言ってるですな」
「うん…そうだけど…」
「…ロック……だめ?」
決心がつかないロックに、気付けば全員が注目していた。
シングやセイル、リピート、…エリィも。
誰もがロックの言葉を待っている。それぞれの思いがひしひしと伝わって来るようだった。

「……うん。わかった。…いいよ、エリィ。僕やシングと一緒に、明日アリアと話しに行こう」
ロックの言葉を聞くなり、エリィは。
「…うん!…あ、えっと……ありがとう、ロック」
…エリィは…嬉しそうに笑った。
ロックは虚をつかれ目を見開くが、やがてじわりと滲むように、至上の喜びが胸を占めていく。
「…どう…いたしまして」
(お礼を言わなきゃいけないのは…僕の方かもしれない)
きっと…いやどうせ無理だと、後ろ向きな事しか考えていなかった自分。
今だって、そういう気持ちが完全に消えた訳ではないけれど。
エリィのお陰で、少しだけ…晴れたかもしれない。
どんよりとした暗雲を切り裂く、太陽の光のように。

雨上がりに架かる、虹のように。

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