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element story ―天翔るキセキ―
突然の休暇


話をしている内に、五人はヴァルトルの居る筈の応接間の前へと辿り着いた。
何かしら用で部屋を空けていない限り基本的に此処に居る筈だが、一応声を掛ける前にロックは扉をノックした。程なくして「おう」と短い返事が返ってくる。
ヴァルトルが居る事を確認すると、ロックはふう、と息を吐き。

「…マスター。ロック、入ります」
ロックがヴァルトルの養子であることはギルド内の人間には周知の事実だが、形式として『養父さん』ではなく『マスター』と声を掛けた。
ロックだけではなく、普段はヴァルトルを名前にさん付けで呼んでいるシングもそうしている。

実を言うと、ロックはこのギルドマスターに対する形式が苦手だ。
ロックもシングも、チームメンバー以外の第三者の居る場所などでは形式上・体裁としてヴァルトルを『マスター』と呼んでいた。
ロックは思う。名前ではなく、『マスター』と一括りにして呼ぶのがどうにも他人行儀過ぎる。
…そもそも、『マスター』だけでは他のギルドマスターとの区別が付かないではないか。

そんな思いを秘めつつ、ロックは扉を押し開ける。
そうして彼の目に映ったのは、質素なテーブルに積まれた書類の山々と、それらに挟まれながら羽ペンを走らせるヴァルトルの姿だった。
「と、養父さん。どうしたの、これ」
通常一日でこなしている量より倍以上ある書類にロックは目を見張る。
「明日から五日程此処を空ける事になった。今の内に少しでも仕事を片付けておこうと思ってな」
ロック達の方を見ずにヴァルトルは手短に返す。
見るからに忙しそうだ。
(外出…)
突然どうしたのだろうと思ったが、此処まで忙しそうにしているのに話を長引かせて邪魔するのも悪いと思い、ロックは早々と用を済ませようと口を開く。
「…エリィ」
傍らに居るエリィの背中を軽く押す。
「……うん」
エリィは頷くと、並んでいるロック達の前に進み出て。

「ヴァルトル…さん。…はじめまして。エリィです。…これから、よろしくおねがいします」
「おう。宜しくな」
ヴァルトルは作業を中断し、エリィの言葉に片手を上げて応えた。
「養父さん、それでエリィのことなんだけど…僕らが仕事に行っている間って」
「あぁ、その事だがな。暫くの間…集魔導祭までお前らは休暇だ」
休暇の言葉に、エリィを覗く四人は思わず顔を見合わせる。

「えっ?」
「休暇…ですか?」
突然の言葉に驚きを隠せないロック、シング、セイルの三人に、
「きゅーか…お休みなんですなっ?」
男性陣とは対照的に、リピートは幾分はしゃいだ声で問う。
「そうだ。まぁ他のチームの中にも休暇を言い渡した奴らも居るが。…俺が此処を空ける間、このギルドを守れるようにな」
ギルドマスターがギルドを空ける事は、通常月に一回。
その会議は秘密裏に行われる為、ギルドマスターはそれぞれ変装等をしてギルドを出るのだ。
…ギルドマスターがいない時を見計らって、何かしらの目的でギルドに襲撃をかける者達が居るかもしれないからだ。

「ロック、お前は暫くエリィの世話に徹してろ」
「はい」
「シング、セイル、リピート。お前らは自由にしてろ。此処にいないアリアにも伝えとけ」
「「はい!」」
「…ですな!」


「――よし。じゃあ出てけー」

仕事に戻るヴァルトルに頷き、ロック達は応接間を後にするのであった――。


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あきゅろす。
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