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element story ―天翔るキセキ―
今はまだ、それで


その後、ロックはたっぷり一時間を掛けてアリアを除く五人でエリィの挨拶回りを終えた(途中、軽い朝食兼昼食を取った)。
ロック自身馴染めていないギルドメンバーも居たのだが、そこはシング達のフォローのお陰で何とかまともな挨拶が出来た。

「よし、これで全員に挨拶出来たね」
「後はヴァルトルさんだな」
最後に向かったのは、ロックの養父にしてこのギルドのマスターであるヴァルトルの応接間。
「…ロックの、おとうさん?」
「そう。捨てられていた僕を拾ってくれた人」
「んでもって、このギルドで一番凄くてエラい人だな!」
そう胸を張るシングは自分の事のように誇らしげだ。


「ギルドマスター…ギルドに入団した者が、本来一番初めに挨拶すべき人間だな」
セイルの発言に、ロックは思わず声を詰まらせる。
誰よりも先に優先するべき養父への挨拶を、後回しにしたとも取れるロックの行動を遠回しに非難しているように感じられたのだ。

「…?どうした、ロック」
「…いや、その…」
「どうしたもこうしたも無いですなっ!自分の胸に聞くですな!」
何とも言えない表情で黙り込んでいたロックに疑問符を浮かべるセイル。
間髪入れずリピートは声を上げた。
「……??」
そう言われても尚ピンと来ないらしく、暫くセイルは顎に手を当てて思考していた。
そしてようやく思い当たる節があったのか、ロックに慌てて。
「…あ。…いや、そういう意味で言ったわけじゃない。それに、こい…エリィは正式にギルドメンバーになったわけでもないからな」
「う、うん…大丈夫だよ」
セイルに悪気が無いのはよく分かったから。

必死で取り繕っているようにも見えるが、今回のような事は今に始まった事では無い。
セイルは静かな佇まいからクールで冷静な人間に見られがちだ。が、実際は誰よりも間の抜けた所があり、今回のように悪気無く仲間に皮肉めいた事を言う時がある。
人の言う事を何でも真に受けやすいロックはその度に少なからずグサリと来るのだが、いつも「セイルは何も悪くないし…」と心の中で言い聞かせているのだ。

「セイルもエリィのこと、名前で呼んでくれるんだね」
「…まあな。…改めて言うな。何というか、その」
「気恥ずかしいって?」
「うるさい!」

声を荒らげるセイルはしかし、否定はしなかった。
にやりと笑うシングやリピートに食ってかかる。

「ロック」
「うん?エリィ、どうしたの?」
くい、と服の裾が引っ張られる。
見れば、エリィが此方を見上げていた。
「なんだろ…わたし…むねのおくが…もやもやする…」
小波のように、碧の瞳が揺れている。
息が出来なくなったかのように口を開閉していた。
動かした何度も何度も、発語しようとしてはやめ、またすぐに口を開こうとする。

「エリィ…」
「ロック…わたし、…わたし…」
「いいよ。無理に言わなくて」

今はまだ。――今はまだ、それで。


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