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element story ―天翔るキセキ―
『ただの』疑問

「と、とにかく!エリィ、よろしくですなっ!」
「う…うん」
気を取り直して、リピートはエリィの手を取る。今度はゆっくりと、エリィを驚かせないように。
エリィは若干リピートの勢いについて行けなさそうだったが、まあ慣れれば大丈夫だろう。

「…セイル・リキトスだ」
それだけ言って、エリィから顔を逸らしてしまう。
「セイル。お願い」
セイルが初対面の人間に対してぶっきらぼうなのは今に始まった事ではないのだが、今回ばかりは握手くらいしてあげて欲しいとロックは懇願した。
…何も分からないエリィからしたら、セイルのそういった態度は自らが拒絶されているように感じるだろうから。

ロックの意思を汲み取ったのか、セイルは根負けしたような溜め息混じりで「分かった」と呟いた。
「……」
「…?」
前触れも無く、しゅびっと効果音が付きそうな勢いで手を出したセイルにエリィは疑問符を浮かべていた。
「……っ」
そんなエリィの様子に焦れたのか、「…手を出せ」と声を発す。
そこでようやくエリィもセイルの意図を理解し、手を重ねた。
「…よろ、しく」
「…ああ」

「セイルは相変わらず知らないヒトにはブアイソーですな」
「うるさい」
にやにやと笑うリピートに指摘され、セイルは即座にリピートの頭をパシッと叩いた。今度はさっきよりも強めに。
「アタタ!ぼーりょくハンタイですなっ!!」
「くだらない事を言うからだ」
「でも間違ってはいないよなぁ。本当はもう少し愛想良くして欲しいんだけどなー。…せ、め、て、初対面の女の子にくらいは、な?」
シングはセイルを肘でツンツンとつつき、薄笑いを漏らした。
「性別なんか関係あるか」
ふんと鼻を鳴らし、セイルはシング達から顔を逸らしてしまう。
(ああ、セイル機嫌損ねちゃったよ…。シングもリピートも、人をからかうの好きだよなぁ)
一部始終を見ていたロックは心中で溜め息を吐きつつ。

「じゃあエリィ。最後は……アリア?」
「………」
エリィとアリアは、静かに見つめ合っていた。
否、アリアが一方的に睨みつけていた。

「アリア。アリア・リーン」
氷のように冷たく、抑揚のない声。
それらはまるで、彼女がエリィに対して敵意を持っているかのような態度だった。

心なしか、周りの空気が一気に冷えた気がする。ロックは知らず知らずに身震いしていた。

「アリア…どうし」
「私は貴方の事、信用しない」
ロックには目もくれず、アリアは言い放った。
「アリア…」
「…ロック。この子は危険過ぎるわ。決して入れ込まないように。…チームメイトからの忠告よ」
貴方もねと言いたげにリピートを一瞥すると、止める間もなく部屋を出て行ってしまった。
「アリア!…ったく…」
「…アリア…」
アリアの言う事は確かに間違ってはいないのだろう、けど。
ロックは隣のエリィを見る。
エリィは首を傾げながら、ロックの服の裾を引っ張り。

「…ロック…わたし、きらわれてる?」
それは今まで通り、ただ頭の中に浮かんだ疑問を述べただけで。
――ああ。ほんとうに、なにもわからないんだ。
拒絶されても、なんとも思わない。感じない。悲しいだなんて思わない。
ただ、事実を受け止めるだけなんだ。
ロックは無性に泣きたくなった。

「違う!違うよ…」
千切れんばかりに首を振る。
アリアの言う事は何も間違っていない。
確かにエリィは謎だらけで、危険な存在かもしれない。
だとしても、自分は彼女の味方で居たい。
なぜなら彼女は…。

「ロック…?」
僅かにエリィの声に変化があったが、ロックは気付けなかった。泣かないように抑えるので必死だったから。
ロックは跪いてエリィと視線を合わせる。
そして精一杯の笑顔で、告げた。

「…昨日、色々有ったからね。アリアは少し疲れてるんだよ。…大丈夫、いずれエリィとも普通に話をしてくれる」

自分の言葉がどれだけ確証の無い、無神経な言葉だったとしても、そう言わずには居られなかった――…。


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あきゅろす。
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