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element story ―天翔るキセキ―
運命の実現


「御託なんざどうだっていい。後はこの人形共を連れて行けばいいんだろうが」

「……! フェアトラークは……!」

「……残念だけど、ここにあるよ」

ずっと黙り込んでいたリーブが、懐から取り出したのは紛れもなく、火のフェアトラークだった。火と光の精霊の力を宿し、ロック達がエリィと出逢ったあの洞窟にあったもの――それが、彼らの手に渡ってしまった。


「……」

「……エリィ……!」

「ロック、離して」


――……エリィの声は明朗で、有無を言わせない響きがあった。彼女はもう、これからの行動を決意しているのだ。ロックが受け入れるか否かに関わらず。

「いや……だ。嫌だ……!」

「ロック……っ」

しかし、ロックは手を離さなかった。それどころか、エリィを抱く腕により一層力を籠める。この手を離したら、彼女は自分の前から消えてしまうから。


(なにか、何か出来る事はないのか!?)

パニックになりながらも、ロックは必死に考えた。この現状を打破出来て、かつエリィも無事で済む方法が何か無いのかと。

――このままでは、エリィは消える。彼女が先に提示した二つの方法は、どちらも彼女の消滅を意味しているのだ。

ロックはそれを阻止したかった。世界とエリィを天秤にかけたくなかった。どちらも救いたかった。


「……ロック」

「駄目だ、駄目だよ……! エリィ……!」

「……」

――しかし、どちらも救える方法など、何も見つからなかった。ただ駄々っ子のように喚いて、せめてエリィを離さないようにする事しか出来なかったのだ。

「――テメェ等、いい加減に」

「待って。わたしは……」

「エリィ、言わないで! 言っちゃ……駄目だ……ッ!」

エリィの声を遮るロックの目尻には、涙が浮かんでいた。彼女が何を言おうとしているのか理解しながら、それを邪魔していた。

だが、


「――わたしは、行くから。あなた達に従うから。……だから、ロックはここに置いていって」

「……ぁ……」

言った。言ってしまった。一度言葉にしてしまえば、もう取り消す事は出来ない。現実が、運命がその言葉の実現に向かって動くだけだ。

ロックの心を、絶望感が侵蝕していき。その腕の力が緩んだ隙を突いて、エリィはロックの手から抜け出した。

「あ……!」

走り出そうと思っても、身体が言う事を効かない。手を伸ばしても、彼女の長い金髪を掠めるだけだった。

エリィはロックを振り返る事なく、リーブ達と相対し。はっきりとした口調で告げる。


「もし、あなた達がロックまで連れて行こうとしたら。ここにいる人達みんなに、危害を加えようとしたら。

――……わたしは自分のエレメントロックを完全に砕いて、ここで消える」

「……!!」

その言葉に抱いた感想は、ロック達魔術師とリーブ達とでは全く意味が異なるだろう。

リーブ達は、エリィのエレメントロックが二つに分かたれている事を知らない。だからこれは、完全な脅しになる。


「わたしが消えたら、あなた達の目的は果たせなくなる。……そうでしょう?」

畳みかけるように、エリィは言葉を重ねた。女神イリスの器となる人形が消えてしまえば、女神の復活は出来なくなると。挑発的に、揺さぶりを掛けた。



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あきゅろす。
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