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element story ―天翔るキセキ―
エリィの願い


「――その言葉を聞いた時、わたしは怖くてたまらなくなった。身体が、ぶるぶるって震えた。このままじゃ、本当にロックまで連れて行かれちゃう。そうなったら、復活した女神イリスに対抗できる人が誰もいなくなっちゃうんだって。

……そして何より、わたし自身が嫌だって思ったの。大好きなロックを、消したくないって」

女神イリスと同化してしまえば、人として生きた心も、記憶も、意志でさえも跡形もなく消え去ってしまうだろう。ロックがそうなってしまうのを、エリィはどうしても阻止したかったのだ。世界の為にも、そして自分の為にも。


「……でも、それは……エリィが、『消える』……って……そういう事、なんじゃ……」

けれど。ロックからすれば、その意志に基づくエリィの行動は、つまり彼女の消滅を意味していた。女神イリスが復活した暁には、女神の肉体となり、彼女の、『エリィ』としての意志は何もかも、無くなってしまうのだ。

「……駄目……駄目だよ……! おかしいよ、そんなの……っ!!」

どうしてエリィが消えなくてはならないのか。彼女の意志を聞いてなお、ロックは納得できなかった。理解するのを拒否した。自分の身の為に、彼女が犠牲になるなんて。そんなの、納得できる筈もなかったのだ。

もうすっかり傷の塞がったエリィの身体を、ロックは強く抱き締めた。離してしまったら、彼女が永遠にいなくなってしまうと思ったから。


「――……ロック、ごめんね」

エリィの手もまた、ロックの背中に回される。呟かれた言葉に、どうしようもなく泣きたくなった。

「……あくまで、女神イリスの対抗策は保険なの。本当に女神が復活してしまった時の」

「……保、険?」

「うん。だって、女神イリスを復活させない方法があるから」

「だったら、それを……」

なぜ初めから言わなかったのか。いやそもそも、最初からその方向で行くと決めていたではないか。

ロックの底知れぬ違和感と不安感をよそに、エリィは変わらぬ調子で告げる。


「……魔物の気配を、近くにいっぱい感じるの。魂の人形の気配も、同時に。このままじゃきっと、戦いは今より激しくなって。ここにいる人達、みんなを巻き込むことになると思う」

だから。

「だから、もしフェアトラークが向こうの手に渡ってしまった場合は……わたしはあの人達に、従おうと思ってる」

「……!」

「ロック。わたしのエレメントロックを、持ってくれてるよね?」

「……っ……う、ん」

その問いが来た時。既にロックは、エリィの言いたい事を推測できていた。それはもはや、確信と言えるほどに。

だから、だからこそ、ロックは答えに詰まった。この質問に頷いてしまえば、完全に戻れなくなってしまう。エリィがいなくなる事までが、確定してしまう気がして。


「……ありがとう」

しかし結果として頷いたロックに、エリィは何を思っただろうか。ありがとうの言葉とともに、背中に回した手に力を込めて、彼女は『それ』を口にした。


「……ロック、お願い。わたしがあの人達と一緒に行って、ここから十分に離れたら。

そうしたら、わたしを……――わたしを、『壊して』」

「……!!」

確信が、完全に現実のものとなって、ロックを襲った。絶対に聞きたくなかった言葉を、誰でもない彼女から伝えられた衝撃。――それは、計り知れないものだった。



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