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element story ―天翔るキセキ―
緊急会議の知らせ


閑散な部屋に、ひとつの光が灯った。
部屋の持ち主はそれを一瞥。顔を歪めた。
掌程の小さな箱から洩れる光は明滅し、まるで持ち主を誘っているかのよう。
主は長く重い溜め息を吐いてから箱を手に取り、それを開けた。

「私ですが」
「おう、おはよう!」
「…やはり貴方か。何の用ですか」
箱の光から洩れるのは、相手の大きな声。
それに箱―遠くにいる人物と対話出来る連結魔道具―を少し遠ざけつつ、嫌々返事を返した。
「何だよお前。俺が連絡してくる事を予測してたってのか?」
「こんな時間に連絡を寄越してくる非常識な人間は貴方くらいの物です」
鼻を鳴らす。
相手は特に悪びれた様子もなく、「いいじゃねぇか。この時間はもう起きてんだろ」と返してきた。
主は二度目の溜め息を吐く。
相手は分かっているのだ。この時間…早朝五時はもう自分が起きている時間だと。
なぜなら。

「…それで、なんですか。『魔杖(まづえ)の東』ギルドマスターのヴァルトル・シナジー様?」
「それがなぁ、『宝剣の西』ギルドマスターのランジェル・ギオット殿。俺の息子達が昨日色々とすげーもんを持ち帰ってきたのさ」
ギルドマスターの仕事は途方もなく多い。
自分が管轄している地方での怪物の出現場所や月ごとの出現頻度の記録、ギルド内でのエレメントクリスタルの管理など毎日しなければならない事や確認するべき事ばかりだ。
ギルドメンバーに頼む仕事もあるにはあるが、それも最終的な確認は自分がしなければならない。
よってギルドマスターは誰しも早朝に起き、深夜に眠るのだ。

「貴方の息子が?ほぉ、珍しい事も有るものですね」
ヴァルトルの息子には何度か会った事があるが、所持している虹色のエレメントロック以外に特筆すべき所もない、気も弱々しく魔術師としての才能には恵まれていない人間と記憶していたが。
「俺の息子は普段から充分ギルドに貢献している」
ランジェルの嫌みを含んだ声色に、ヴァルトルは口を尖らせた。
それはいつもの事、予測していた反応だったのでランジェルは聞き流した。

「はいはい、それで?早く言って下さいませんか。私も貴方も暇な身分ではない筈でしょう」
「お前が俺の息子の悪口を言うからだろ!」という反論も右から左へ受け流す。
向こうから微かに舌打ちが聞こえたが、それも受け流した。

たっぷり間を取って、ヴァルトルはようやく本題に入った。
「…虹色のエレメントロックがまた見つかった」
「!!それは、本当ですか」空気が一変、張り詰める。
ランジェルは息を飲んだ。
「嘘なんか吐くか!…んで、他にも不可解な物が発見されている。俺としてはこれらについて会議をしたい」
通常月に一度の、秘密裏に行われるギルドマスター達の会議。
それは各ギルドで依頼達成中に起こった出来事や発見されたエレメントクリスタルの群生地についての報告が主だったのだが。

「わかりました。それは会議すべき事でしょうね」
既に今月の会議は済んでいるが、緊急事態だ。ランジェルはすぐさま承諾した。
「レスナには俺から言っとくから、お前はナイクに連絡を頼む。緊急で話すべき事だ、明日の夜には始められるよう準備しておいてくれ」
残りのギルドマスターは二人。
それは『紋章の南』レスマーナ・サーメル。
『聖杯の北』ナイク・シュリエだ。
彼女達にも早く連絡しなければならない。
となれば、これ以上時間を食う訳にはいかないだろう。
「他に用件はありませんね」
「ああ。…じゃあ、頼むな」
「はい、わかりました。それでは」
連結魔道具の光が消えたのは、向こうの会話終了の合図。
ランジェルは魔道具の蓋を閉じて、ふうと三度目の溜め息。

――今まで二つとして存在しなかった虹色のエレメントクリスタルが、再び発見された。
これは一体どういう意味を持つのだろうか。
ギルドマスター総出で調べても、どんな書物を漁っても虹色のエレメントクリスタルの記述など存在しなかった。
それが一つどころか、まさか二つ目が出現するとは…。

「…まあ、今は考えても仕方ありませんね」
あの方に話を聞かない事には、何も。

気を引き締め、北ギルドのマスターへ連絡するためにランジェルは再び連結魔道具を手に取ったのだった――…。


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