element story ―天翔るキセキ―
人間と同じモノ
「エリィっ! ……エリィ! しっかりして!」
「……ぅ……あ、……ろ、く…」
「エリィ……!」
ぐったりとしているエリィの身体を、腫れ物を触るように、慎重にロックは抱き上げる。エリィの背中から流れる赤い血は鮮やかで、彼女の白い肌や金髪をじわじわと侵蝕していた。目を逸らしたくなる程の光景に、しかしロックは目を離さず、エリィを見つめていた。
薄く開かれた、いつもは陽光を浴びた海のように輝くはずの碧い瞳は、嵐を迎えたように濁っている。
「どうして……誰が、こんな……!」
――ついさっき、あんなにも優しい笑顔を浮かべていたエリィが、どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ。
ロックはそう思うのと同時に、やはりさっきエレメントロックから感じた『響き』は、彼女の助けを呼ぶ声だったのだと気付き、結局助ける事が出来なかった自分を強く責めた。
何より、一体誰がこんな事を。そう思った時だった。
「ろっ、く……気を……つけて……ちかく、に……」
「そこに誰かいるぞっ!」
「……え」
エリィが途切れ途切れに、しかし必死に訴えてくる。そしてそれに重なるように、遥か後方からコルトの叫び声が届いた。
「――……動くんじゃねぇよ」
「……!」
「ロック! エリィ!」
聞いた事のない男の声が、ロックのすぐ目の前で聞こえた。そしてその時、舞っていた砂埃がようやく収まり、ロックは全容を把握する事となる。
――感じたのは、強い悪意。毒を塗り込んだ矢が、身体を貫かんとするかのような。それはもしかしたら、『殺気』と表現する方が正しいのかもしれない。
「動くんじゃねぇって言っただろうが」
血の色に似た赤い瞳の男は、右手に長剣を手にしていた。白銀に光る刃はしかし、今は鮮血に染まっている。滴り落ちるそれを目にしたロックは、エリィをここまで傷つけた者の正体に気が付く。
――……ふつふつと沸き上がるような、激しい怒りを覚えた。だが、ロックは動けなかった。何故なら、男はそのエリィの血に染まった剣を、ロックの喉元に向けていたからだ。
「ここにいる全員。誰かひとりでも動きやがったら、斬る」
「くっ……!」
こちらに向かってくるいくつかの足音が、止まる。男の所作には一分の隙もなく、その発言は紛れもない真実だという事が、誰の目にも理解できた。
凍りつくような空気の中、男はエリィを見下ろしながら、ふと声を漏らす。
「血の色も、臭いも、人間と同じか。――……気持ち悪ィ」
「……!!」
エリィを抱くロックの腕が震える。恐怖ではなく、声すら出て来ない程の、耐え難い怒りから。しかしそれを視界に捉えた男は、眉間の皺を深くして。
「――テメェも同じか」
長剣をロックに向けたまま、一歩を踏み出した。
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