element story ―天翔るキセキ―
最悪の状況
――……ドクン、と。その時、鼓動が全身に響き渡ったような気がした。
「……!?」
「……? おい、どうした」
顔が突然強張ったロックに、コルトは訝しげに声をかける。ロックは鬼気迫った様子で、腰の道具袋に手をやった。
「……エリィ……?」
そこにある、エリィのエレメントロック。それにロックは『何か』を感じ取った。まるで残響のような、か細くも強い波のような、形容し難い感覚。
「何だか、嫌な予感がする……!」
ロックは、先程から声を発していない審判の方へ顔を向けた。審判は真剣な表情で、連結魔道具を手にしている。ロック達の決着に未だ何も言わないのは、言わないのではなく言えなかったからなのだ。
それに気が付いた瞬間、ロックは今、何かがこの響界内で起きているのだと確信した。
「……件の奴らが来たって事か」
ロックの視線を追って、コルトも同じ考えに到達したらしい。表情を固くしつつも、落とした剣を拾い上げながら、ロックに告げる。
「俺は今、他には補助魔道具しか持っていない。お前に関して言えば、普段使っている剣だって控え室に置いてるだろ」
だから一旦、お互いの控え室に戻る事をコルトは提案し、ロックもまたそれに同意した。
(エリィ……)
エレメントロックからの響きはどんどん強くなっていっているようで。ロックは胸騒ぎがした。
早く武器を取りに戻って、これから何が起きても大丈夫なように備えなくては。ロックとコルトはお互いに背を向け、客席下の廊下に向かい走り出す。
――……と。その時、立っていられなくなる程の地響きが起きた。聴覚を壊してしまうような轟音が鳴り、ロック達はあえなくその場に手をつく。何が起こったのかと、人々が悲鳴を上げていた。
「……なんだ……?」
鳴動は一分もしないうちに止みはしたが、一体何があったのだろう。とりあえずロックは立ち上がり、周囲を見回した。シング達を始め、客席の人間には異常はない事を確認――。
「……!!」
ロックはその時、シング達の元にエリィがいない事に気が付いた。なぜ、どうして、あの場にいない?
「……エリィ!」
ロックの不安は最大限に高まっていた。エリィ自身である彼女のエレメントロックが反応していたのは、つまり彼女に何かが起きたからではないのか。
『――現在の振動は、響界内の全扉の施錠および侵入者を防ぐゲート封鎖によるものです。魔術師ではない一般の方々は、そのまま絶対に動かず、待機していて下さい』
「……なっ!」
たまらず走り出そうとしたロックに、無情な事実が告げられる。連結魔道具で話していた審判が言う事が本当ならば、ロック達は控え室には戻れない事になる。あの暗い廊下までしか進む事は出来ず、武器も持って来れない。
「最悪だ……!」
思わずそう呻いたロックは、観客席の人々の驚き戸惑う声を聞く。侵入者とはどういう事なのかと、傍にいる魔術師に詰め寄っている者も数多くいた。
まさしく、阿鼻叫喚と呼ぶにふさわしい状況。
その真っ只中に今、ロックは立ち尽くしていた。
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