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element story ―天翔るキセキ―
変わった

場はざわめいており、審判の指示を待っているようだった。だが、なかなか審判は試合の終わりを告げない。理由は分からないが、ロック達にとって今それは重要ではなかった。

「……コルト。イメリアは、コルトの事を凄く……きっと僕よりも、大切にしてるよ」

「……何を根拠に、そんな事を言い出す? 勘とか言いやがったらぶっ飛ばすぞ」

「あはは……うん。大丈夫だよ」

本気だろうコルトの発言に、ロックは僅かに苦笑する。が、すぐに顔を引き締めて。


「……どうしてイメリアが、今までずっと秘密にしてきた想いを、突然数日前に口にしてきたのか。……それは、コルトに対して『申し訳ないと思ったから』なんだよ」

「……なんだと?」

「コルトとの仲が悪くなった理由がイメリアにとって、僕との事をコルトに相談したから……そうイメリアは言ってた。コルトにとってどうでもいいような事を、何度も話したから。だから、コルトは自分の事を嫌いになっちゃったんだって。……そう、言ってたんだ」

「…………っ」

コルトはその時、ロックが今まで見た事のないような……痛ましい表情を浮かべた。まるで、大切なものが目の前で傷つけられたような……いや、ある意味間違っていないかもしれない。コルトはいつだって、イメリアの事を想っているのだから。


「もし、コルトが……今の話を聞いて、何か間違ってると思ったなら……イメリアと、ちゃんと話して欲しい。すれ違いとかそういうの、終わりにして欲しいんだ」

「……お前に、何でそこまで言われなくちゃならねぇんだよ」

「そりゃあ、僕だって当事者みたいなものだし。……何より、人に嫉妬して、大好きな人を遠ざけ続けるのは……凄く、すごく……辛いから」

「……」

「ついこの間、僕はそれを知ったんだ。だけど、『だからコルトの気持ちは分かる』なんて言わない。コルトは僕よりずっと長く、その痛みと向き合って来たんだから……」

誰かに嫉妬したり、それが原因で大切な人を遠ざける。その感情に実感が持てたのは、エリィとシングの件があったからだ。もしあの件がなかったら、ロックのこれらの発言は、到底コルトの心には響かなかっただろう。


――……現実は、違った。
ロックの言葉ひとつひとつはちゃんとした意味を持つ、想いの通った言の葉であった。決して人の事を何も考えない、無神経な発言などではない事を、しっかりとコルトも理解出来たのだ。


「……お前は」

口を開いたコルトは、なぜか悔しそうに言う。

「……お前は、いつからそんな人に説教を垂れる性格になったんだよ」

「もし、僕が変わったのなら。それはきっと、皆のお陰だと思うよ」

「勿論、コルトも含めて」なんて、茶化すようにロックは笑った。それをまじまじと見たコルトは、はあと大きな溜め息を吐く。


……そして、口の端に僅かな笑みを乗せて、言った。


「――……俺の、負けだよ」


同時に、コルトの手から剣が滑り落ち、乾いた音を立てる。それを合図としたように、ロックの魔術も力を失い消滅した。長い間締め付けられていたコルトは、支えを失ったように地面に膝を着いた。


――……いつの間にか静まり返っていた会場が、一気に沸き立つ。審判の声は相変わらず聞こえなかったが、そんな事はもはや頭の隅に追いやられた。


ロックは片膝をつき、手を差し出す。それに気が付いたコルトは、神妙な面持ちで顔を客席側に向けた。

――その視線の先には、イメリアがいた。彼女はまるで祈るような瞳で、コルト達を見つめていて。その姿を見たコルトは苦笑する。慈しむような、優しい目つきだった。


「……フン」

そうして、ロックの手を掴み、立ち上がる。ロックに対しては未だ気に入らないと言いたげではあるが、そこには今までのような棘はなかった。


――……ロックは願った。コルトとイメリアの仲が、昔通りに修復する事を。
そして自分も、どうか彼らと友好関係を築けるように、と。




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