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element story ―天翔るキセキ―
その可能性は


――……まさか、コルトが剣を使うなんて。ロックは予想だにしなかった出来事にいささか混乱していた。

「オラッ、さっきまでの威勢はどうしたんだっ!?」

「っ……!」

片膝をついた状態では、コルトの剣を受け止め続けるのにも限界がある。コルトは剣に体重をかけながら、じわじわとロックの体力を奪っているようだった。

なんとかしなくては。そう思った時、ロックの脳裏にとある人物が浮かんだ。


「――……イメリアは」
「!!」

その人物――イメリアの名を呟いた瞬間、コルトの力が一瞬だけ緩む。ロックはその隙を見逃さなかった。

「はっ!」
「! クソッ」

素早く立ち上がると同時に、横一閃。目一杯の力を込めたその攻撃は、コルトを遠くへ突き飛ばすに至った。
思惑通りに距離を取ったロックは、すかさず紡ぎ歌を唱える。

「大地に根ざす大樹よ、その枝葉集いて彼の者へ牢獄を! ――イード-ジュラク!」

「……ぐっ!!」

紡ぎ歌が完成し、コルトの足元に茶色の陣が浮かび上がる。するとそこから幾つもの枝が伸びていき、コルトの身体を拘束した。枝はひとつひとつは細いものの、表面がごつごつとしておりすぐさま脱出する事は難しく見える。

「クソッ……!」

コルトは剣で枝を斬ろうと考えたようだが、剣を握る右手も縛られている状態でびくともしない。
だとすれば後は魔術を使って脱出する他ないが、目の前にはもうロックがいて、剣を向けていて。コルトは忌々しげに睨みつけた。


――……ロックが魔術を使おうとした事に、コルトは少なからず驚いた。そしてそれが最終的に、初動が遅れて紡ぎ歌を止めるタイミングを逃した結果となってしまったのだ。

人の生命エネルギーであり、術者のスタミナともいえる体内エレメント。それを多く持たないロックは、滅多に魔術を使わない。
彼が魔術を行使する場面を初めて見た魔術師も多くいる事だろう。コルトもそのひとりだった。

無意識に、彼が魔術を使うという可能性を度外視していたのだ。
始めにロックを騙した事で、また自身のプライドから、ロックに勝つなんて余裕だと思ってしまった。

――……つまり、敗因は自分の驕りによるもの。気が付けば騙し返されていて、あっという間に逆転された。その事実が、何よりコルトにとってショックだったのだ。


「……イメリアの事を勝負に利用したのは、謝るよ。……ごめん」

「……」

もはや、審判の手によって止められるのは時間の問題だろう。勝敗は一目瞭然だからだ。

だが、ロックは口を開く。ほんの少しの間でもいい、今ならコルトが話を聞いてくれると信じて。

「……イメリアから、もしかしたら聞いてるかもしれないけど。……僕は、」

「言うんじゃねぇよ」

告白された件について言おうとしたら、コルトにぴしゃりと遮られた。ロックはその反応で、コルトがそれを知っているものだと察する。
コルトは不愉快だと言いたげに睨みつけているが、纏う空気にはさして張り詰めてはいなかった。それどころか、ロックが話を続けるのを待っているかのような雰囲気すら感じられた。




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