element story ―天翔るキセキ―
思惑
二年前のエルの事件から、当時に在籍していた断罪者は全員解任されたという。その多くが、もう非人道的な行為をしたくないからという理由だったようだ。
閑話休題。とにかく、オブシディアンはこれを利用し、地下に囚われたリーブを救出する事となった。
アッシュは別の役目だが、こちらもかなり重要な役目だ。
道は狭く、天井も真上にある。その為、腹這いになって進まなければならなかった。その上、周囲には灯りなど存在しない。ときおり部屋の光が僅かに見える程度で、他は完全に真っ暗闇である。
「そろそろ合図しないとな……んじゃあアッシュ、また後で」
「チッ。クソリーブの野郎なんか、放っておきゃあいいってのに」
そんな愚痴を吐きながら、アッシュは分かれ道を左へ進んでいく。オブシディアンは彼の普段通りの毒舌に笑いながら、連結魔道具を手に取った。
そして、いずこかへと話し出す。
「――あー、うん。そろそろお願いー」
「……連絡が来た。タイガが、単独で現れたそうだ」
「単独で……?」
タイガと接触した魔術師からの連絡を受け、ヘリオドールは現状をヴァルトル達に伝える。
が、それに何か引っかかるものを感じたらしい。ナイクは顎に手をやって、考える仕草を取った。
「どうしたの?」
「……いえ。……随分と予想とは違っていたから」
「何だ、予想ってのは」
「タイガが来る事はある程度予想していたわ。私達と実力が拮抗していて、かつ他の魔術師が手出しし辛いと考える人間だもの。今みたいに、堂々とやってくる可能性も考えていたわ」
「でもね」と、ナイクは言葉を繋ぐ。
「フェアトラークを誰が所持しているのか、例えあの異能の子の力で把握していたとしてもよ。……フェアトラークの回収と、リーブの救出は同時には行えない筈。
つまり、人数が足りないのよ」
ナイクの説明に、ヴァルトル達はハッとしたように目を見張る。が、唯一ランジェルは納得がいかないとばかりに口を開く。
「リーブ氏の救出を、タイガ様達が端から諦めている可能性だってあるでしょう。彼らの目的からすれば、あの少女とフェアトラークの回収が最優先なのですから」
「確かにそうね。でも、それ以外の可能性も常に考慮しなければいけないわ」
「それ以外の……可能性だって?」
「ええ」
頷き、ナイクは他の人間を鋭い瞳に捉えて。
「――……私達が、何か大切な事を見落としているかもしれないという、可能性よ」
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