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element story ―天翔るキセキ―
冷静に


「た、タイガ様……!!」

「……来るなら、来い」


――タイガは、堂々と響界内を闊歩していた。道を塞ぐ魔術師達へ、金色に輝く宝剣の切っ先を向けながら。その佇まいは、逃げも隠れもしないという強い意志が、見るもの全てが肌で感じられる程だった。


「……俺は、出来る事ならお前達と戦いたくはない。力の差は歴然だ。たった一人でいる俺に、お前達は指一本触れる事は出来ないだろう」

「……っ!」

「ど……どうする……?」

タイガは冷静に状況を見極め、ずっと頭の中で考えていた通りの言葉を吐いた。重要なのは、自分の内心の迷いを悟られない事。ただ毅然としている事だ。

周囲にいる魔術師の数は二十人程。いくらタイガといえど、それらを一斉に相手取り無傷でいるなど本来ならば不可能だろう。


――……だから、利用するのだ。相手側の心理を。元ギルドマスターであり、宝剣を手にする男に果たして勝てるのかという迷いを。
そして願わくば、この男とは端から戦いたくないという結論に到達してくれと、タイガは心から懇願していた。

(アッシュ達の移動の時間も稼がなくちゃならないんだ)

ここからはお互いの呼吸、時間の戦いだ。出来る限り、それぞれの行動のタイミングを合わせなくてはならない。


「――……見逃してくれとは言わん。だが、もしもお前達が俺のように、戦う事を良しとしないのであれば。

……ヴァルトル達のいる場所へ、俺を案内してくれないか」

魔術師達の固唾を呑む音が、聞こえたような気がした。それはもしかしたら、自分の鼓動が早鐘を打つ音かもしれないが。


暫く、魔術師はタイガと向き合ったまま。警戒しながらも、視線のみで会話していたようだった。


――……そうして、僅かな後に出された結論は。


「――了解しました……」

迷い、戸惑い、焦り。
あらゆる思いを綯い交ぜにしたような、苦悶の表情。それを浮かべながら、魔術師のひとりが前に進み出て、確かにそう言った。





「――……んじゃ、ここでいったんお別れだねー」

オブシディアンとアッシュは響界の入口でタイガと別れた後、違う場所から響界へ侵入した。

それは、かつてオブシディアンが上司から教えられていた、響界内に張り巡らされた隠し通路である。
前代表は非人道的な任務を当時の断罪者に与えて来たが、それを他の響界使者などに見つかる事のないように、秘密裏に造ったものだ。

地図も設計図も、断罪者達に覚えさせてからすぐに燃やされ、恐らくは響界代表のヘリオドールは何も知らない筈だ。



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あきゅろす。
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