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element story ―天翔るキセキ―
初動


――ロックのように剣を使う人間と、コルトのように武器を扱わない人間とでは、まず初動がある程度決められた動きにならざるを得ない。実戦ならともかく、集魔導祭においてはの話だが。

一対一という状況も手伝って、この場合は剣を扱う人間が必ず攻撃を仕掛けるのだ。


「恵みの水よ……」

「……っ!」

ロックは歯を食いしばり、足を速める。――理由は、これだ。

本来ならば、相手が読める行動などしたくはない。が、剣は接近しなければ相手に届かないのだ。かといって出方を待っていれば、その間に相手は紡ぎ歌を完成させ、魔術がこちらに襲いかかるのだ。

誰にも頼れず自分だけという今、接近戦に持ち込む以外に出来る事がない。それでもロックが魔術に長けていればまた話は違うかもしれないが、そうではないのだから。


「……たぁあああっ!」

「……っち」

コルトとの距離を詰める。右足で踏み込み、薙ぎ払うように剣を振るった。コルトはしゃがむ事でこれをかわし、ロックに向かって足払いをする。
ロックはこれを予想し、出していた右足を引っ込めながら足払いを避け、剣の切っ先をコルトの頭上に振りかざした。

剣は試合用のもので、刃は斬れるようなものではない。しかしその攻撃でとどめが決まったと審判が判断すれば止められ、試合は終了するのだ。

(今だっ……!)

ロックは剣を振り下ろす。――勝負はいつだって、何がきっかけで終わるか分からない。勝利のチャンスが目の前にあるならば、すぐに実行に移すべきだと考えたのだ。



「――舐めんじゃねぇよ!!」

「っ!?」

その時。ロックは迫り来る『何か』を視界の隅に捉えた。それはロックの剣を振り払い、そこから一直線にロックの顔目掛けて向かってくる。

「くっ……!」

ロックは攻撃体制が崩された状態で、あえて転がるようにしてコルトから距離を取り、立ち上がろうとした――が、もちろんそれを黙って見過ごすコルトではなく、ロックの予期しなかった魔道具を持って追撃を仕掛けてきた。

「……これはっ……!」

「へっ……驚いたかよ」

片膝をついた状態で、ロックは振り下ろされたコルトの武器を剣で受け止める。その時ようやくコルトが何を手にしていたのかの全容を目にし、ロックは思わず目を見開いた。


コルトが手にしていたのは――ロックと同じ、試合用の長剣であった。

試合の際、コルトが手にしていた魔道具の内ひとつがつまりこの、武器魔道具である『長剣』だったという事だ。

それはロックにとって、大きな誤算である。コルトは始めから、ロックが特攻してくるように仕向けていたのだ。――自分は武器を持っていないのだと、印象づけて。

実際には外套の中に隠し持っていたのだから、ほぼ確実にわざと接近戦に誘い込んだのだ。そしてその餌に、ロックはまんまと嵌った――……。




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