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element story ―天翔るキセキ―
伝わるもの


『それでは、第五試合の参加者は速やかに入場して下さい。次は東ギルドメンバー、ロック・シナジーとコルト・ラスティの試合となります』

「……」


――……自分の出番が、来た。

ロックは立ち上がり、粛々とした足取りで歩き出す。
控え室と会場を繋ぐ通路は客席下に造られている為に、昼間であっても夜のように暗い。しかし頭上から響く人々の声と、行く先にある舞台から差し込んで来る光が、ロックの心を高揚させる。

高揚はすれど、例年のように緊張にまみれてはいなかった。寧ろ今のロックはかなり冷静に物事を考える事ができる。


『――頑張って、ロック』

「……うん」

エリィの声と、笑顔を思い出して。ロックはそれに応えるように力強く頷き、道具袋越しに虹色のエレメントロックに触れた。

――……自分のものと、あの時砕かれたエリィのものの、片割れだ。

エレメントロックからじんわりと熱が伝わって来る気がする。エリィが応援してくれている証だ、とロックは確信した。


ロックは暗がりを抜け、光の元へ向かう。




――会場に出た瞬間、人々の声が降ってきたような錯覚を覚えた。暗い通路から出て来た為、一瞬だけ明るい光に目を閉じる。

『ロック・シナジーとコルト・ラスティの両名は、そのまままっすぐ進み出て下さい』

審判の声に従い、ロックはゆっくりと目を開けた。そうして遙か遠く、自分の視線の先に――コルトの姿を認める。


「……」

遠くからでも分かった。コルトはこちらを睨みつけている。射抜くような目で、こちらを見ていると。

しかし、ロックだって負ける気はない。試合前の時点で気持ちで負けるなど、あってはならない。

――自分はコルトとイメリアの件について、ここでケジメをつけるつもりなのだから、と。

だから、ロックは目を逸らす事なくコルトの視線を受け止め――自分もまた、鋭い目つきで返した。


そのまま、二人は舞台の北端と南端で相対する。
コルトは普段とは違い、長い外套を着込んでいた。それは集魔導祭においてよくある事であり、特に珍しい事ではない。

『ギルドメンバー同士の試合ですが、ロック・シナジーは剣を装備している為、魔道具の使用制限が掛かります』

審判の声をどこか遠くに聞きながら、ロック達はお互いに視線を外さないままだ。


魔道具の使用制限は、剣や弓などの単独で戦力になる武器を、日常的に扱っている人間に与えられる。紡ぎ歌を唱えなければ攻撃出来ない魔術師が、圧倒的不利になるのを避ける為だ。

先の外套の件も、それぞれ相手の持つ魔道具が何であるかを分からないようにするのに有効である。
今回の場合はコルトが三つ、ロックがハンデを背負い二つの魔道具の所持が許されているのだ。


「――コルト」

「……」

「……やっぱり無視するんだね」

ロックは目を細める。その仕草と声色に挑発的なものを感じたのか、コルトの眉がぴくりと動いた。


「いつまでも、そうやって無視出来るなんて思わないでね」

「……何だと?」

強気な発言に、コルトは初めて口を開いた、が。


『――それでは一回戦第五試合、ロック・シナジーとコルト・ラスティ。――始めっ!!』

その時審判の声が響き渡り、それに興奮した人々の叫びに近い声が追随する。


それらを背景に、ロックは試合用の剣を抜き、走り出した。



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あきゅろす。
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