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element story ―天翔るキセキ―
届かなかった言葉


「――あの……エリィ、さん」

ロック達よりひとつ前の試合を観戦していたエリィは、ふいに肩を叩かれたような気がした。次いでかなり遠慮がちなエルの声が聞こえてきて、どうしたのだろうとそちらを振り向く。

「……その。……ぼく、お手洗いの場所が……わ、分からなくて……ですね……だから、その……」

「わたしが案内する?」

「ご、ごめんなさい……良かったら……お、お願いします……」

「うん、分かった。いいよ」

エリィは特に悩む事もなく承諾した。自分は試合には参加しないし、響界はどこに何があるのか分かり辛いのだ。誰よりもエルに付き添うのは適任だと思った。

「ん……二人共、どこか行くのか?」
「うん。ちょっと」
「……すぐ帰って来るのよ」
「行ってらっしゃいですな」

皆に頷き、エリィは「じゃあ、行こう」とエルに手を差し出す。

「……!」
「どうしたの?」

その時、エルはなぜか目を零れんばかりに見開き、フードの中からエリィの顔を凝視した。エリィはその様子が不可解で、首を傾げる。ただ、エルが自分以上に小柄だから、人に紛れてはぐれないように……と思っただけなのだが。

「……い、いえ……なんでも……ありません。……じゃ、じゃあ……」

エルは言いながらも、暫く差し出されたエリィの手に自分の手を重ねる事を迷っているようだった。そうして何度か躊躇うような素振りを見せてから、そろそろとエリィと手を重ねる。

「……わたし、怖い?」
「いっ、いえ! そんなことはありません!」
思わずそう聞くと、エルはとんでもないとばかりに首を振って否定した。

「そう? ……じゃあ、行こうか」
「! …………は、はい……」

エルは否定したが、どうにも怖がられているような気がして。エリィはそれを取り払えないものかと、あまり慣れていない笑顔を浮かべた。意識してやった事がなく、不自然なものになっていないかと危惧したが。

エルはまた、驚いたような顔をして。しかし今度は、ちゃんとエリィと手を繋いだ。


そうして、エリィはエルを伴ってシング達から離れる。試合中の為、なるべく周囲の観客達の迷惑にならないように身を屈めて歩いた。


「――……ごめんなさい」

「え?」

……どうやら、試合は終わりを告げたようだ。
エルのか細い声は、あえなく周囲の喧騒に飲み込まれた。


「エル、何か言った?」
「い、いいえ……なんでも、ありません……」

「そう……?」

エリィが問いかけても、エルは何も答えず。少し疑問に思いながらも、エリィはそれ以上追究する事はなかった。




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あきゅろす。
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