element story ―天翔るキセキ―
仲が良い
「おいお前ら、なーに隙を見ていちゃついてんだよ!」
「ちょ……シング、やめっ……!」
ぐいっと腕を首に回され、ロックは悲鳴を上げる。それを見たエリィは一瞬虚を突かれたように目を見開いたが、すぐにくすくすと笑った。そして釣られたようにロックとシングも吹き出し、やがて他の三人も笑い出した。
「全くもう、くだらないわね……!」
普段なかなか笑みを零す事のないアリアでさえも、口元は笑っていて。皆がみんな、先ほどよりリラックス出来たようだった。
「――仲が良いのね」
「えっ、あ、はいっ!」
そんな六人を見ていたカヤナが静かに告げる。彼女は微笑を浮かべてはいたが、なぜだろう。どこか哀愁が漂っているように、ロックには見えた。
「……そろそろ、行ってくるね」
それから一時間後。後一試合を挟んで自分の出番という頃、決意を固めたロックはゆっくりと立ち上がる。
「おう。頑張れよー」
「応援してるですなー!」
「行ってらっしゃい、ロック」
エリィやカヤナ達に見送られながら、ロックはその場を後にした。
「……」
「……」
ロックの姿が遠く離れた頃、カヤナとエルはお互いの顔を見合わせていたが、それを目にした者は誰もいなかった――……。
「……そうか、分かった。……その後も計画通りに頼む」
「……エル達から?」
「ああ。今の所、特に問題はないそうだ」
連結魔道具を懐に仕舞いながら、タイガは言う。彼は以前響界を訪れた時と同じように仮面を被っており、隣にいるオブシディアンはかつて着ていた断罪者の制服と仮面を身につけていた。
「それじゃあ……そろそろ行こうか」
白の仮面の下で、オブシディアンは薄く笑みを浮かべて。
後ろ手に縛ったタイガの腕を掴みながら、堂々と響界入口へ向かった。
「一体どうした?」
響界の入口である、豪奢な門の前。見張りとして立っていた内のひとりが、オブシディアンを仲間の断罪者だと思ってか声をかけた。
「――……響界付近で不審な動きをしていた者を捕らえたのですが……」
困り果てたような声を出して、オブシディアンは後ろからタイガの仮面をそっと外す。
「……!!」
「タイガ様っ……!」
瞬間、見張りの二人は驚愕に目を見開く。二年もの間行方を眩ましていた彼が目の前に突然現れた事に、例えそうなる可能性があると覚悟していても驚かざるを得なかったのだ。
――……そして。その一瞬が、彼らにとってどうしようもない隙となる。
「ぐっ……!?」
「ッ!!」
その隙が、タイガとオブシディアンに距離を詰められ、鳩尾に一撃を入れられる程の時間を生み出してしまった。
見張りの二人は、しまったと言いたげな顔をして……やがて崩れ落ちる。
「さて、今日は色々持ってきたから。とりあえず、死なない程度に拘束しとくよー」
言い、オブシディアンは外套の中に右手を入れ、すぐに引き抜く。しゅるっと音を立てて現れたのは、人ひとりを軽々と縛り付けられるだろうロープが二本。
さらにそれと同時に、太ももにベルトで括り付けていたポーチの中から小さな針を取り出す。
「それは……」
タイガは近くにいるアッシュに連絡をし終えると、オブシディアンの行為に目を細める。
「んー。まあ、毒針っていうのが分かりやすいかな。捕虜とか拷問用に使ってた奴だけど、実際のとこ致死性はないし、心配しなくて大丈夫だよ。……これでよしっ……と」
タイガに説明しながら、オブシディアンは見張りの男二人を手早く、しかし自力では抜けられないように固く縛った。そして、それぞれの腕に針を一秒間ほど刺す。
それらの動作は流れるように自然で、彼がこういった事に慣れているのがよく分かった。
――こうしてタイガ達の計画もまた、順調に歩みを進めていた――……。
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