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element story ―天翔るキセキ―
強くなったから


――……集魔導祭に出場する権利があるのは、みな響界の魔術師試験をパスした人間だけだ。
その試験をパスしながらも、中には響界務めにもギルドメンバーにもならない人間もいる。例えば、魔道具商人や旅人などだ。
そんな人間は希少だが、一応『一般人』に属するそれらの人々もこの集魔導祭には参加する。その為、戦うのはギルドの魔術師だけではないのだ。


「クミレとラフターか……属性的にはクミレが有利だよな」

「そうですな」

シングの言葉に、リピートは頷く。


――……対戦相手は、開催直前に張り出されるトーナメント表にて発表される。同じギルドの魔術師から、東西南北の順番に対戦していく。
一般人は三回戦から戦う事になっているが、これはギルドメンバーと戦闘経験に差があるという事で与えられたハンデである。


『――勝者、クミレ・ザナード!』

審判の声に観客席は沸く。結果はシングやリピートが話していた通り、パーソナルエレメントの相性差でクミレという少女が勝利した。


『それでは、第二試合の参加者は速やかに入場して下さい。次は西ギルドメンバー……』

「…………」

「……ロック、大丈夫……?」
傍らのロックの顔が、どことなく沈んでいて。思わずエリィは声をかけた。緊張しているのはお互い様だが、彼を見ていると心配の念の方が強くなってきたのだ。

「……う、うん。……大丈夫……じゃ、ないかも」

ロックはエリィに力なく笑みを返し、自分の心境を打ち明ける。


「さっきセイルの言った通り、僕は今出来る事をしようって思って……それで、今は自分の試合に集中しようと思ったんだけど……」

ロックの表情に、さっと陰が差す。

「……僕さ、集魔導祭では今まで一回戦も勝てた事がないんだ。そもそもの実力の問題なのか、いつもびくびくしてたからなのか。……理由は多分、後者の方が強いんだけど」

それに、今回の一回戦の相手は――コルトなのだ。


「結局コルトとは、あれから何も話せないままだし……今度はそれで緊張しちゃって」

「そうなんだ……でも違う方向から考えたら、これはチャンスじゃないの?」

「チャンス……」

エリィは頷き、

「だって、コルトと普通に話そうとしたら無視されちゃうんでしょ? だったら、試合はある意味無理やりにでも話すチャンスじゃないかな」

「そっか……」

確かに、そうとも考えられるかもしれない。どうせ普通に会話を求めても無視されるのだ。ならば無理やりにでも、この場で会話を引き出そうとしてもバチは当たらないだろう。


「……それに、きっと今のロックなら大丈夫だよ」

「え?」

ロックが頭の中でそう結論付けた時、ふとエリィは口を開いた。何でそう思うのかと考えていたら、エリィは笑みを浮かべて、一言。


「――だって、ロックは強くなったから」

「……あ、……ありがとう……」

あまりにもまっすぐに見つめられて、何の迷いもない笑みを向けられたためか。ロックはなんだか照れくさくなって、頬を掻いた。恐らく赤面しているなと思ったが、どうしようもない。

「わたし、応援してるから。頑張って、ロック」

「う、うん……ありがとう、エリィ」

気恥ずかしくはあるが、彼女にそう言われたらなんだか元気が出て来たように感じる。同時に、彼女にいい所を見せたいと無意識に思ったのは男のプライドだろうか。

ロックは今日という日が始まって初めて、色々な意味で萎縮していた心が休まったような気がした。



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あきゅろす。
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