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element story ―天翔るキセキ―
再会と出会い


「……ついに始まったな」
「……うん」

客席三層目に座るロック達は、開催の挨拶を終えて客席下の通路へ去っていくヘリオドールを見ながら、そう小声で会話していた。そうしなくとも、周囲の喧騒は十分に話の内容を包み隠すだろうが。

「……もう、何があっても誰にも止められないんだよね……」

ロックはごくりと唾を飲み込む。今まで色々な事があったが、恐らく一番緊張しているのが今だろう。

「落ち着け……なんて言っても、説得力はないよな」

「……ここにいる全員がそうでしょうね」

言い、アリアは会場内を見回す。

「魔術師は皆、一様にどこか落ち着きのない顔をしているわ」

「仕方ないですな……だって今日が、世界に関わる何かが起こるかもしれない日なんですな」

「……だが、俺達がそれを言った所でどうしようもないだろう。俺達は、自分に与えられた役目をこなす事を最優先に行う。……それだけ、考えればいい」

「……うん。そうだね」

セイルの言う事はもっともだが、彼自身なにより自分に言い聞かせているようだった。表情はいつになく固い。


「……隣、空いているかしら」

「あ、はい……あなたは……?」

六人の中で一番端に座っていたエリィが、やってきた女性に応対する。と、その女性にどこか見覚えがあるような気がして、首を傾げた。

「あっ、カヤナさん! 来てたんですね」

「ええ……」

エリィの反対側の隣に座るロックが、女性を見て声を上げる。彼女は以前、ルーンの街で出会ったカヤナだった。

「なんだ、その人知り合いか?」

「うん。この前、エリィとふたりで街に出てた時に……あれ、今日はシディアンさんは一緒じゃないんですか?」

「その子は……」

前に会った時、カヤナと共にいた青年はこの場にいなかった。その代わり、彼女は小さな子供を連れている。ロックとエリィの視線に、カヤナは苦笑しながら答えた。

「ああ、彼は今日は来れなくてね……。この子は、彼の妹のエルよ」

「……はじめ、まして。……ぼくは、エルと申します」

子供は大きな外套に身を包み、顔まですっぽりと隠していた。身を乗り出してロック達に挨拶する際にも僅かに顔を見せる程度で、その小さな声からも人見知りの激しい性格に見える。


『一回戦第一試合、クミレ・ザナード対ラフター・テイル! ――始めっ!』

それぞれが簡単な自己紹介を終えた時、ちょうど第一試合が開始された。客席一層目の審判の声に従い、戦うふたりの魔術師が舞台に進み出た。


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