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element story ―天翔るキセキ―
気に病む


――……集魔導祭。それは、ギルドの魔術師を中心にして行われる大会だ。

その始まりは、響界が民衆に実力を示す――間接的に、恐怖によって支配する為に開催されたものだと言われている。が、現在にはそのような意図はない。少なくとも、今の代表であるヘリオドールとしては。


今回の仕様変更については、表向きには若者達の修練のためとしている。東西南北どのギルドの人間も、今回は十代の魔術師しか試合には参加しない。他の魔術師は、響界の警護にあたるのだ。


「――……発表から開催まで、一週間しかなかったのにコレか……」

開催時間が迫る中、次々に観客席へと入ってくる人々を見下ろしながら、溜め息混じりにヴァルトルは呟く。

試合会場は、響界内北東方面の緑区画と呼ばれる地点にある。天井はなく、そこには丸く象った舞台と、それを囲むように設置された五層もの観客席。
ヴァルトル達ギルドマスターらは、その二つを一望出来る階上にて待機していた。部屋は小さく、とても響界の重鎮たちがいる場とは思えない。

「……仕方がないわ。人々は、いつだって娯楽を求めるものよ」

ヴァルトルの隣で、同じように人々を見下ろしながらナイクは言う。その響きには、ヴァルトルと同じような心苦しさがあった。

――町単位ならともかく、世界全体で行われる行事などは少ない。それに、普段は魔術師しか入れない響界の中に行けるのだ。そんな好奇心もあり、人々はこぞって響界を訪れたのだろう。

利用する形になってしまった事を、ここにいる誰もが気に病んでいた。が、それはもはや考えても意味のない事。せめて有事の際に、人々に被害が及ばないよう努める。彼らが出来るのは、それだけだ。


「……そんな事より、僕達は別の事を考えた方が有意義でしょう。時間は有限です」

「そう言いながら、お前も随分と落ち着かねぇ様子じゃねえか?」

「……」

「ラン君、大丈夫……?」

「……平気です」

部屋の中心部に鎮座するソファーに座りながら、ヴァルトル達を咎めたランジェルだったが、ヴァルトルに言い返され思わず口を噤む。テーブルを挟んで彼の向かい側にあるソファーに座るレスマーナに心配され、居心地悪そうに視線を逸らした。


彼は言動から冷たい人間だと思われがちだが、ヴァルトル達と同じように人々を慮る気持ちもある。しかし何より、ランジェルはタイガの事を考えているのだろう。


リーブは沈黙を貫いたが、タイガが彼に協力している事はほぼ確実。そして今日、彼を救出する為かもしくは別の目的で、ここにやってくるだろう。


「…………」

ランジェルだけでは勿論ない。タイガの事を考えている人間は、ここにいる全員だった。

(お前も、そうだろうな……)

ヴァルトルは、会場に立ち開催を告げるヘリオドールを眺めながら、そう思っていた。




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あきゅろす。
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