element story ―天翔るキセキ―
修練場にて
――三日後。
ロックはひとり、ギルドの修練場に籠もっていた。
「……はぁ……はっ……」
早朝。ギルド外周とルーンの街を二周走ってきて、それから修練場にて対魔物用と対魔術師用の演習を行っていた。
ギルドに帰還してからの三日間、ロックは毎朝そのスケジュールで動いていたのだ。
そして午後から夕飯の時間まで、今度は実際にエリィ達と実戦。対魔術師用の訓練に重点的なのは、リーブ達の事や集魔導祭では魔術師と戦う事を考えてだ。
「……くっ…!」
息を切らしながら、ロックは走り出す。瞬間、彼がついさっきまで立っていた場所に火柱が走った。
ロックは広い部屋の壁際から回り込むようにして、部屋の中心に立つ人のかたちをした何かを視界に捉える。
それは響界から支給されている、魔術師を模した『魔導機』と呼ばれるものだった。魔道具の一種で、事前に訓練相手を設定すると自動的にその人間を標的にして動くものだ。
疑似的な魔術は勿論、魔道具すら扱う。動きはさすがに人間と同じくはいかないが、それでも訓練用としては上出来だった。
「えいっ!」
ロックは腰に提げている道具袋から丸く小さな玉を手早く三つ取り出し、魔導機に向けて投げつける。
すると、玉は魔導機の足元に着弾した途端に小爆発と煙を起こした。
「…よし」
ロックは剣を抜く。切るよりも突く事に特化したレイピアは、部屋の白い明かりに照らされ眩しい光を帯びた。
――…例年通りならば、集魔導祭ではギルドや響界の魔術師中心に、旅人などのちゃんとした役職を持たない魔術師が集まり実力を競い合うのだが――今年は少しやり方を変える事となっていた。
リーブ達の協力者を誘い出す為に、今回の集魔導祭はある。だが、それにはひとつ大きな懸念材料があったのだ。
それは――…『一般人を巻き込む』という点。
毎年、集魔導祭には多くの人が集まる。この日この時だけは、普段は魔術師以外には開かない響界の門戸が開かれており、また娯楽を求めてやってくる人間も多いのだ。
もし、作戦通り響界内に敵がやってきて、戦闘になれば。戦う術を持たない一般人すら巻き込んでしまうのだ。
敵を誘い出すには、一般人をも響界に招かなければいけない。だが、一般人を戦闘に巻き込めば犠牲者が出る可能性が限りなく高い。
「…っ!」
立ち上る煙の中から、火の矢がロック目掛けて放たれた。ロックは剣で軽く凪ぐようにしながら素早く右に踏み出す。すると、火の矢は剣によって軌道が外れた。
(戦いに必要なのは、経験だけじゃない。魔術に関する知識も、同じくらい大切)
訓練を共にしている時、アリアやセイルに口酸っぱく言われていた言葉を暗唱しながら、ロックは足を止めずに魔導機の背後に回った。
――あの火の矢は、シングもよく使っている下級魔術。
ほぼ直線的にしか撃てず、小回りの効く相手にはあまり効果がない。こうして動いていれば当たる事はないのだ。
「――…だぁああああっ!!」
両手で剣を構え、背後から突撃。
――勝負は、着いた。
煙が完全に晴れた時。ロックの剣の切っ先は、魔導機の首元ぎりぎりで止まっていた。
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