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element story ―天翔るキセキ―
確実な判断


――…それは夢だった。


(…いや、本当にあった事だ)

起き抜けのぼんやりとした頭の中、タイガは一人ごちる。

いつの間にか寝ていたらしい。ベッドからゆっくりと上体を起こし、窓の外を眺める。とはいえ、この家は滝の裏の洞窟にある為に外の光景で時間を判断する事は困難だが。
しかしタイガは、何だかんだといってもう二年もここで暮らしている。その為、恐らく今が深夜の時間帯であるという推測が出来る程にまでなっていた。

(起きて時間を確認するのは、子供の時からの癖だったがな…)

誰に言うでもなく、タイガは心中で呟く。昔の夢を見たからか、どうにも気分は晴れない。

――…自分達がまだ、子供の頃。年齢でいえば、確かヴァルトル達が今のロックと同い年ぐらいの時だった筈だ、あの話をしたのは。

(ヴァルトル。お前の方がリーダーに相応しい、俺は今でも変わらずにそう思う)

仲間達と離れ、ギルドマスターになって。そうして人の上に立った時、タイガはそれを再認識していた。

今思えば、自分がヴァルトルに対して抱いていた感情には憧れもあったのだろう。
自分は彼のように、裏表なく人と向き合うのは苦手だ。子供の時も、ギルドマスターになった後も、人に自分の意図が伝わらず誤解される事もよくあった。

何とか自分なりに考えて、人と向き合う事に気持ちを傾けてきたが…それでもやはり、彼には叶わないと今でも思う。


(人と向き合うのは、簡単な事じゃない)

今自分が関わっている、リーブ達。彼らに出会ってから、タイガはそれを昔以上に痛感していた。

タイガは、彼らの事を詳しくは知らない。いや、どうしてここにやってきたのかという経緯は知っているが。それに伴う感情の推移は全く知らないのだ。
彼らが何を思い、リーブの思想に共感しているのか。それをタイガは推測する事しか出来ない。


(…俺は、)

向き合うべきなのだろうか。彼らと。

…今なお、一線を引いている人間もいるというのに?


――…自分はどうするべきなのか。また、どうしたいのか。タイガには分からなかった。

それに――

(俺のギルドの人間は? …ランジェルは今、俺の代わりにギルドマスターになっているらしいが)

彼も彼で誤解されやすい人間だ。どうにも冷たい印象があり、他人と衝突する事も多い。
だが、客観的に物事を考える事が出来る、ある種とても素直な人間だった。

彼は今、どうしているだろうか。

集魔導祭などで会う度、特にヴァルトルやロックに対して冷たく振る舞っていた。ヴァルトルはともかく、ロックは随分と怯えてしまっていたが…。

(……ロックは)

タイガはもう真実を知っている。彼が人間ではなく、あの人形達に近い存在であるという事を。

(お前は甘えただったな。ランジェルにあれこれ言われて、泣いてないといいが)

けれど。今でも尚、自分にとって大切な存在である事に変わりはなかった。あの時見つけた赤ん坊は、普通の人間と同じように成長してきた。

それをずっと見守ってきた為に生まれた情は、そう簡単に壊れる事は無かったのだ。


(……)


――会いたい、と。

無意識にそう思ってしまったタイガを、責めるものは誰もいなかった。いや、『彼自身』を除けば、の話だが。


(…ヴァルトル、ナイク、リオ、レスナ)

仲間達と敵対している事に関して、未だ気持ちは整理出来ていない。こんな夢を見てしまったのも、その迷いの現れに違いなかった。

いい加減に、ちゃんと覚悟するべきだ。

もうフェアトラークも、ひとつを除いて全て集めてしまっている。そして最後のひとつ、火のフェアトラークは恐らくヴァルトル達の内誰かが所持しているのだから。


――…もう、対立は避けられないのだ。タイガ個人が何を考えていようと、確実にそうだと判断出来た。


理性的なもうひとりの自分が、そう――判断していた。



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