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element story ―天翔るキセキ―
心から思える

「確かに、状況を見て冷静に判断する事も大切だ。だがそれ以上に、大切な事があると俺は思う。そしてだからこそ、俺でもなくナイクでもなく、ヴァルトルがリーダーに選ばれたんだと思っている」

「それ以上に…大切な事?」

「ああ」

淀みなく頷き、タイガは続ける。

「お前は確かに考える事は得意じゃない。だが、何より『人』を見ている。チームがどうこうではなく、俺達という人間一人ひとりを。俺達がどういう性格なのか、どういう性質なのか。その理解は、自らがちゃんと相手に向き合っていないと生まれないものだ」

うまく言葉に出来ているだろうか。タイガは機械的に物事を判断する事は出来るが、こと自分の内面に関してはなかなか言葉に出来ない。
そういった面で言っても、自分よりヴァルトルの方がリーダーに向いているとタイガは伝えていく。

「お前は素直で、裏表のない人間だ。だからこそ安心して背中を預けられる。きっと皆そうだ。…作戦なんて、考えるのはリーダーじゃなくても出来る。だが、チームの人間一人ひとりに目を向けられるのはリーダーだけだ。俺にはきっと、出来ない。

――…だから、俺はお前の方がリーダーに相応しいと。そう、思っている」

チームの仲間達とそれぞれ向き合い、性質を理解する人間が、リーダーとして一番前に立つ。それは時に、機械的に下された判断を凌駕するとタイガは考えていた。

それが、理由。ヴァルトルの方がチームリーダーに相応しいと思う、ただひとつの理由であった。


「……そういうもんかな。俺、そんな風に言われる程凄い事はしてねぇんだけど」

「そういうものって考えていいんじゃない? 何せ、考えるのが得意なタイガの言う事だし」

「おい、ナイク…」

悪戯めいた笑みを、ナイクはタイガに投げかける。ヴァルトルはそれを見ながら暫く考えている風だったが、やがて「…そうだな」と頷き。


「タイガのお墨付きって考えりゃあ、俺もこれからは胸張ってリーダーやれそうだな!」

「そ、そういうものか…?」

「ああ、そりゃ勿論! 俺からすれば、お前の言う事にだって迷いなく背中を預けられるんだからな!」

ヴァルトルの笑顔には、まさしく迷いがない。無条件にタイガを信頼しているのだと、誰の目から見ても明らかな。

「そ、そうか…」

対するタイガは落ち着かない様子だ。ヴァルトルのまっすぐな言葉は間違いなく嬉しいのだが、少なからず照れてしまう。



――そして、タイガは思うのだ。


(…そうだ。そんなお前だからこそ、)


――…自分達の唯一無二のリーダーであり、仲間であり、かけがえのない友人であると。


そう心から思えるのだ、と――……。




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あきゅろす。
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