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element story ―天翔るキセキ―
奇跡


「かんぱーい!」

それから数時間後。宿屋の談話室にてグラスを掲げるのは、東ギルドメンバー。ヴァルトルをリーダーとしたチーム『キサラギ』であった。

別任務で訪れた街に、突如として魔物が出現。幸いにも他のチームとともに行動していたため、魔物の討伐は分担して行う事が出来た。

「作戦、ばっちり成功だったね!」

そう言って、にっこりと笑うのはレスマーナだ。最後に残った魔物をタイガと仕留めた彼女は、満足げに他のメンバーを見回す。

「何とかなって良かったよ、本当に。…正直ホッとした」

ヘリオドールは「途中、ホントに冷や汗かいたぜ」と漏らす。その様子を見て、他の四人はくすくすとからかうように笑った。

「リオはビビりのヘタレだもんな? 冷や汗どころかちびってたんじゃねぇ?」

「リオ。大丈夫よ、もう安心していいから。安堵のあまり涙を流したって誰も笑わないわよ?」

「ああ、実はそうだったんだよ…。さすがはチームメイト、美しい友情に涙が出るぜ…! それじゃあ遠慮なく……って、言うとでも思ったのかバカ! お前らはいつもいつもオレをなんだと思ってるんだッ!?」

「えっ?」
「何だよその『お前まだ分かってないの?』って顔は! オレがこんなポジションなのはひとえにお前らのせいだろーが! オレはこんな扱い認めねえかんな!!」

ヴァルトルやナイクの発言に思い切り噛みつくヘリオドールだったが、残念な事に彼自身が認めていようがいまいがポジションが変わる事はない。

それを証明するように、レスマーナやタイガが続く。

「うん。その反応が面白いから、ついいじめたくなっちゃうんだよね!」

「俺としても、お前の反応は見ていて面白いんだ。だからすまん、助けてやれない」

「……。オレの味方がいない事と、お前ら全員鬼畜だって事がよぉーく分かったよ。…クソッ、もうしゃべってやらねえ。ずっと黙り込んでやる」

他人を遮断するように腕を組んで、ヘリオドールはそれきり黙り込む。
しかし、その顔つきは明らかに拗ねた子供のもので。ヴァルトルやレスマーナはギリギリ吹き出すのは耐えられたが、溢れる笑いは抑えられず。口を手で塞いでも、身体がぷるぷると震えていて。
ナイクやタイガも、そんなヴァルトルやレスマーナの姿含めこの光景が随分と愉快で、滲み出る笑いを抑えられなかった。


――取り留めのないやり取り。
それはまさしく子供じみていて、この少年少女達が、つい数時間前まで魔物と戦っていたとはとても思えない程だった。


――…きっと五人とも、誰もが安心していただろう。

彼らはまだ子供というべき年齢ではあるが、皆ギルドメンバーの一員だ。先のように魔物と戦う事もある。判断を間違えれば、死ぬ事だって有り得るのだから。

死線を乗り越えた仲間達と、他愛のないやり取りが出来る。それはきっと、とてつもなく大きな幸せだ。『奇跡』と、そう呼んでもいいかもしれない程に。



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あきゅろす。
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