element story ―天翔るキセキ― その瞬間、 ――その瞬間、全てが動いた。 魔物達はタイガに向かって一斉に走り出し、対するタイガは避ける素振りも見せず、迎え撃つように立ち止まった。 「我が杯を以て命じる。その源が落つる時まで、燃え盛る紅蓮は全てを遮断せし護り手である。 …ログナ-ティラス!」 そこに、明朗に響く紡ぎ歌。しかしそれはタイガのものではない。 素早く唱えられた紡ぎ歌の結果、魔術は滞りなく行使される。 タイガの足元へ、どこからともなく流れいずるのは煌々と燃え盛る炎。それは優しい温もりをもって、タイガを包み込んでいった。 魔物が言葉をなさない咆哮を上げ、タイガとの距離を一気に詰める。そうしてそのまま、刃のように鋭利な腕を思い切り振るった。 「?!!」 ――…目を持たない魔物。しかし、もし魔物に目があれば、この時確かに驚愕に見開かれていただろう。 魔物の刃はタイガに触れる事なく、タイガの周囲に吹き荒れる炎に触れた。勢い良く振るわれた刃は、しかしタイガどころか身に纏う炎すら切り裂けずに焼け焦げる。 「――…どうやら、知能は低いようね」 その声は、先の紡ぎ歌を唱えた少女――…タイガの仲間、ナイクと同一のもの。風の使い魔に乗る彼女の手には、紡ぎ歌の詠唱を短縮できる魔道具・杯が握られていた。 「…リオ!」 ナイクと共におり、風の使い魔を操る少年――ヴァルトルは、魔物がこちらに手出し出来ない程の距離を保ちつつ状況を見守る。 ナイクの魔術が正しく発動した事を確認すると、彼は隣の少年に合図した。 「――全ての生を育む大地よ、汝を蹂躙せし哀れな生者に慈悲を与え賜え。 …イード-ダナン!」 ヴァルトルの呼びかけに答えるように、黒髪の少年は紡ぎ歌を唱える。素早く行使された魔術により、魔物の足元に凝縮された土のエレメントが大きな岩石へと変化する。 結果、岩石に足を覆われ、魔物達は身動きが出来なくなった。 「よし! タイガ! レスナ!」 ヴァルトルの呼び声が響き渡る。タイガの目の前に固定された魔物達は何とか逃れようともがいているが、一向に抜け出せない。 「――…命の繁栄を司る炎の神子よ、我らの願いを聞き入れ賜え」 歌が紡がれていく。声はふたつ、少年と少女のもの。 「神子の炎は、まさしく命を象徴せし灯火。哀れな生者を罰する為、今ここに顕現せよ!」 紡ぎ歌を唱えるタイガの視線の先――目の前にいる魔物を越えた先――、こちらに向かって、ゆっくりと歩いてくる少女がいた。 少女――レスマーナは紡ぎ歌を唱えながら、魔物を挟むようにタイガと向き合う。詠唱は止めないまま、お互いに目を合わせ――…重なる声が、最後の言霊を紡いだ。 「打ち下ろせ! ――ハティ-レッガーダ!」 ――燃え盛る炎が、唸りを上げるように魔物達を飲み込む。それはまさに、業火と呼ぶに相応しいものだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |