element story ―天翔るキセキ―
正直な気持ちを
「オレにとって、ロックは何つうか…弟みたいな感じだからさ。だからそう感じられたんだと思う。……ロック自身が変わりたいって思う事は良い事だと思うし、応援してやりたいって思うけど。
……生まれた理由を思い出した瞬間、人間として生きてた頃の気持ちとか…そういうのを全部忘れちまったら…」
「……」
「正直、すんごくショック受けるだろうなってさ。身勝手だし不謹慎かもだけど、オレはずっとそう思ってたんだ」
「……シング……」
シングの考えていた事を聞いたロックは、茫然と呟く。自分の生まれた理由を思い出してから今までの数時間、シングはそんな風に考えていたのかと。
「ごめんな。…信用してなかったのかって言われても、返す言葉がない」
「……ううん。大丈夫だよ」
ロックは首を振り、立ち上がる。そうしてシングをしっかりと見据えながら、自分の正直な気持ちを告げた。
「僕は寧ろ、嬉しいなって思ったよ。シングがそういう風に考えてたんだって、確かにびっくりはしたけど……。
でもそれ以上に、僕は嬉しいよ」
一息間を置いてから、ロックは続ける。
「自分自身の事を思い出して、それで精神的に少し落ち着いたのは確かだよ。でも、僕も不安だったんだ。
……思い出した事で、今の僕とそれまでの僕との間に、何か決定的な溝が出来ていないかって。
気付かない内に、僕が皆の知ってる僕じゃなくなってるんじゃないかって。…心の奥底で、僕はそう思ってたんだ」
――…そう。だから、ロックは言うのだ。
「…だから。僕は今、嬉しいんだ。シングが言ってくれた事、僕は僕のままだって言ってくれた事。ああ良かったって、思えたから」
弱い自分を変えたいと思う事と、全く違う精神になる事には、それこそ決定的な溝があると言えた。少なくとも、ロックにとってはそうなのだ。
ロックは、今まで人間として生きてきた十六年を無くしたくはない。関わってきた人、事、全てを無意味にしたくない。
あくまでも、ロックはロックのままで、自分のやりたい事をやりたいのだ。
「シング、ありがとう」
「……ロック、お前……」
シングは呆けた様子で、ぽつりと呟く。さっきとは立場が逆転していた。
「……優しい奴だなあ、お前。分かってたけどさ」
「え? いや、そんな事ないよ。僕なんかより、シングの方がずっと」
「コラ! 僕『なんか』とか言うな! もっと自信持て!」
「あ! う、うん! そうだね! うん、僕は優し…って、さすがにこれは何か違う気がするよっ!?」
「全く…」
シングはふっと笑う。そうしてロックと笑い合う彼の心の中に、ある感情が満ちていく。
それは、『安堵』だ。
(…全く)
責めてくるか、そうではなくとも内心ショックを受けるか。正直な気持ちを話した時、シングはロックの反応がそのどちらかである事を覚悟していたのだ。……が、結果はどちらでもなかった。
ロックは責めるどころか嬉しいと言い、ショックを受けるどころか『ありがとう』と言ってきた。それが紛れもない本心からの言葉である事は、シングには容易に判断出来たし、恐らくアリア達に聞いてもそうだと言うだろう。
「……お前はホント、良い奴だよ」
少し照れくさかったが、シングは言った。自分の本心をロックに話す事、それはいい事だと思ったから。
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