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element story ―天翔るキセキ―
ひとつの道


――人形はただただ佇んでいた。虹色のエレメントクリスタルの中で、その時を待ちながら。

何をするでもなく、ただ待つだけの時間。


(――…?)

ふと違和感を覚えた。何もせず、こうして待っているだけという行為に。


(何故だ…?)


今、自分に出来る事はない。あの人間達が全てのフェアトラークを集めるのを、待っている以外には。

(なのに、何故だ…)

あえて表現するなら――手持ち無沙汰、というのだろうか。
自分の状態をそう分析しながら、やはりどこかおかしいと感じて。人形は違和感と戸惑いに苛まれる。


「…私には、そもそもっ…」

自分などないのだと、何度となく言い聞かせていたのに。あの小僧がいなくなって、ようやく平穏な時間が訪れた、筈なのに。


「何故だ…!?」

わからない。答えは出ることはない。
ちらつく小僧の幻影に惑わされ、どうしようもなくナニカが掻き乱されていく。



『――…エリア!』


この感覚がなんなのか、人形は答えを出せないままだった。





――東ギルド 執務室


「失礼します」


突然の来訪者に、リーブは少し機嫌が悪かった。寄りにもよって、カヤナに大切な事を言おうとしていたタイミングで、だ。
彼女が元気を取り戻せたのは良かったけれど、こちらもこちらでかなり重要な事だったのだが…。
迫り来る足音がこの部屋を目指しているものだと気付いた際、慌てて魔道具の連結を切ってしまったことに後悔する。

きっと今頃、カヤナは戸惑っているだろう。いや、心配しているかもしれない。

(彼がいなくなったら、もう一度改めて話そう)

そう心に決めて、リーブはやってきた魔術師の男を見据える。

「どうしたんだい?」

が、男が開口一番放った言葉に、リーブは驚愕することとなった。


「リーブ様。つい先程、貴方様に響界への召喚命令が通達されました。『大至急に』との事です」

「…!」

響界襲撃事件。それの容疑者であるアッシュの素性が伝われば、いずれは自分に矛先が向く。それは理解していた。

(思っていたよりも早い…)

響界に行けば最後、ギルドに戻ってこれたとしても今より自由には動けないだろう。そうなってしまえば、孤島にいる仲間達への連絡も上手く行かなくなる。

「…ヴァルトル様は未だ戻られていない。今ギルドマスター代理を務めている私が、ここを離れるのは得策ではないだろう。いつまた、以前のような賊が現れるか――」

「いいえ」

リーブの言葉を遮るように、男は首を振って。


「『構わない。直ちに響界へ』と。ヘリオドール様の御命令です」

「っ……」

――…無理だ。これ以上食い下がるのはあからさまに不自然かつ、怪しい言動に見えてしまうだろう。


「……ああ。分かった」

内心でいくつもの葛藤が渦巻く。が、リーブの目の前には承諾の道しか残されていなかった。




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あきゅろす。
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