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element story ―天翔るキセキ―
精霊のちから―4


――エリィの言葉に、耳を疑った。
相変わらず鳴動し続けている洞窟の中で、その声は何気無くしていたら思わず聞き逃してしまいそうな声量。

「ぇ……ウンディーネ、って……」
しかしそれでもロックの耳には確かに、たしかに、ウンディーネという名が届いていた。

「そう。ウンディーネ」
平然と言うエリィは、「そうすればいいんじゃないの?」と続けた。

「……そう、だね。でも……」
正直耀術の存在を失念していた。確かにエリィの言う通りウンディーネを召喚すればみんな助かる。
――けれど。

「……エリィ。僕は耀術は使えないんだよ」

失念していたのも、そもそもの話自分には使えないからで。
それを聞いたエリィは「え……?」と不審そうに眉を顰めた。

「……ほんと?」
「ホントだよ。聖術も使えない。体内エレメントが圧倒的に足りないから」
「そう……なの……」

エレメントオーブで補強しても、他の魔術師と比べたらそれは天と地ほどの差があるだろう。そんなロックには耀術は勿論、高位魔術である聖術など到底扱える代物では無いのだ。


「……エリィ? どうし……」

今まで座って静聴していたエリィが突然立ち上がり、ロックを見上げた。

「……ロックは、そのなかまのひとをたすけたい?」
「それは当たり前だよ!」
聞くまでもない問いに、思わず声を上げた。

「あたりまえ……うん、わかった」
ロックの言葉をぼんやりと反芻してから、エリィは僅かに頷き、そして。


「――ッ!!?」
突然の事だった。
エリィが立っている位置を中心に半透明の紋様が浮かび上がったのは。
それと同時に、エリィの身体が光を帯びた。
空の蒼ではない。彼女の瞳と同じ、海の底のような、碧。
そこから同じ色の光の奔流が暴風のように押し寄せ、ロックは溺れているような錯覚に陥りそうになる。……絶対に溺れない身体であるというのに、だ。

「……う、くッ……」
それでも、ロックは何とか目を凝らしエリィを、彼女を取り巻く光を見ていた。
彼女の足元で半透明に明滅するそれはいつか見た覚えがある。

(そうだ、これは)
遠い記憶を辿った先にあった、これは。
昔、耀術書で読んだ――。

「ウンディーネの印(いん)……!」
この紋様はウンディーネを示す古代語だ。
さらに彼女が立つ中心には別の何か模様が刻まれているのが見えるが、それは何か解らなかった。

ロックが見ている間にも、印の周囲にさらなる紋様が刻まれていく。
エリィはずっと目をかたく閉じ、人の愚考も罪も何もかも受け入れる女神のように両手を広げていた。
彼女の髪も、服も、頭飾りに付いた装飾品も光の奔流を受けてあちこちに靡き広がり、それはまるで波のよう。
首に提げられた虹色のエレメントロックも、鎖がはちきれんばかりに揺れ動き、眩い光を放つ。
その光だけが唯一、碧色ではなく虹色に煌めいていたのが酷く目に灼き付いた。

「…!」
空気が、変わった。
印が浮かび上がった時とは比べ物にならない何かを感じた。

「こ、……れっ、は…!!」

感覚でわかった。このぴりぴりと肌が灼かれるような感覚。この場所だけ別の世界の次元と繋がったかのような感覚。
これは、


「術式が……展開しているんだ!!」


無理に開いてた目がいい加減悲鳴を上げていたのも構わず、ロックは目をこれ以上無いぐらいに見開いた。
碧の光も虹色の光も目に痛い。痛かったが、しかし美しい輝きでもあったのだ。

「ウンディーネ……きて」
エリィは手を掲げ、目を開き、それを。


――喚んだ。


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