element story ―天翔るキセキ―
精霊のちから
時を同じくして。
「シングー!ちょっと待って欲しいですなー!」
「さっさと追い付いて来い!」
息を切らすリピートに、前を走るシングは振り向かずに返す。
そんなこと言われても、とリピートは悲鳴を上げた。
「そもそもっ、どうしてこんなにッ、急ぐんですな!」
「探索を早く済ませて、皆と合流する為だ!」
「それにしたってー…ひぇえっ!」
死角から突如獣型の魔物が飛び出し、驚いたリピートは尻餅をついてしまう。
「リピート!」
シングが振り返った時には、既に魔物は大きな爪をリピートに振り下ろそうとしていた。
「わっ……――我、風の友! 我の元に集いっ、切り裂け! イード・シュレルぅ!」
転がるようにして攻撃を避け、リピートは紡ぎ歌を唱える。瞬間、彼女が魔物に向かって突き出した掌から緑の光が出現した。
鮮やかな森色に光るそれは風の波動を放ち、魔物に鎌鼬を浴びせていく。やがて致命傷を受けた魔物は断末魔の叫びを上げ、霧散していった。
元々魔物というのは大量のエレメントで象られた異形であり、エレメントクリスタルから溢れる膨大なエネルギーから生まれるらしい。
時折人里に降りてそこにいる人間を襲う魔物もおり、ギルドの人間がエレメントクリスタルの採取を使命としている理由の一つとされている。
なぜ、魔物が人間を襲うのか。それは不明だが、自分と同じように大量のエレメントをその身に宿した人間に惹かれているのではという説がある。真偽は、誰にも分からない。
「大丈夫か?」
「へ、へいきですなー……」
リピートの声には覇気が無く、その気の抜けた様子はヘロヘロ、と表現するのがピッタリだった。
しかし先程の魔術、大した力の無い魔物が相手だったから良かったものの、やはり紡ぎ歌を間違えている。
「正しくは、『我、風の友。我の元に集いし友よ、彼の物を切り裂け』。だな」
「うっ……」
「アリアやセイルとコンビじゃなくて良かったな?」
からからと笑うシングだが、アリア達のように厳しく叱らずともしっかりと指摘する。
「全く。どんな状況でも周囲への注意を怠るなってヴァルトルさんが言ってただろ?」
「うぅー……」
「ほーら、行くぞ」
また口を尖らせ不満げにしょぼくれているリピートに言い、シングは再び歩き出した。
ギルドマスターであるヴァルトルを親しげに呼ぶシングは、十六年前ロックを拾った当時ヴァルトルが担っていたチーム『キサラギ』のリーダーを二年前に継いだ者である。
彼の養子となっているロックとも幼少より親しいシングは、幼い頃から彼の事を尊敬しているのだ。
「…ん…あれは」
ぼんやりとした赤白い光が見えて、シングは足を止める。後ろのリピートも同様に立ち止まり、シングの背中越しにそれを認めた。
「色が濃い……エレメントクリスタルの可能性がある。行くぞ」
光はごつごつした石段を登ったその先から差しており、此処からではそれがエレメントクリスタルによるものかどうかは把握出来ない。
シング達は警戒しつつ、今度はゆっくりと歩を進めた。
淡い光は眩しい程では無いものの、靄が掛かったように多少視界が悪くなる。
石段を登り切り、目を細めながら見たものは。
「……祭壇、か?」
岩で造られた、無骨な祭壇のようなもの。
ぱっくりと口を空けた四角い岩。その両端にはエレメントロックが置いてある。赤い光は、岩の口の中から放たれていた。
よく見てみると、その光は小さな石から放たれていた。
エレメントロックではなかったが、不思議な気を感じる。
「……ん?」
石には何か文字のような紋様が刻まれていた。全体に渡ってびっしりと刻まれた文字は、しかし何が書いてあるのかは全く分からなかった。
「リピート。これ、読めるか?」
周囲に罠が無いか確認してから、注意深く石を手に取りリピートに渡す。
「んー……よく、わからないですな」
「そうか……じゃあ仕方がないな」
とりあえず持って帰って、ヴァルトルに相談してみよう。そう思い、シングが石を仕舞った途端。
――それは、起こった。
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