element story ―天翔るキセキ―
ある意味、笑える話
「これはクセみたいなもんでさ。なかなかこう、他の表情が出来なくてねー。よくちびっ子には怖がられるし、気にしなくていいよ。ロウラみたいなタイプの方が経験上珍しいのさ」
「で、でも…」
エルの頭の中に、ベリルの顔が過ぎる。エルが敬愛するあの人は、いつも彼の事を気にかけていて。彼のふとした言動に、時折ひどく悲しげな表情をするものだから。
「…くせ、って……どうして、ですか?」
それを思い出していたら、知らぬ間に問いかけてしまっていた。エルは言い終わってからしまったと思う。
本能的に『怖い』と感じる、彼の笑顔。それが癖になっているという事は。聞くまでもなく、その理由は決して良い事であるはずがないだろうに。
「ごっ、ごめんなさい! ぼ、ぼく…なまいき、言いました」
エルとしては、理由は気になるというのが本音だ。だが、それは自分なんかが聞いていい事ではないと思う。
ごめんなさいと頭を下げるエルに、オブシディアンは変わらぬ笑顔のまま「気にしないでいいよ」と告げて。
「さっきは質問に答えて貰ったんだし、今度はオレが答えるよ。別に減るもんでもないし」
「…すみません」
「いいって。…ああそう、これから話すのはある意味笑える話だけど。もし不快になったら言ってね、すぐ止めるから」
「…はい…?」
『ある意味笑える話』と言われて、エルは首を傾げた。これから明かされる話の内容が、まるで見当がつかない。
「えーと…じゃあとりあえず、まずはオレが断罪者になった経緯でも話そうか。そこから話した方が分かりやすいと思うし」
「は、はい…お願いします……」
エルはごくりと息を飲む。いつだって考えの読めない彼が、一体どういう形で今のようになったのだろうか。
――…そして、オブシディアンは語り出す。
『ある意味、笑える話』を。
――…オブシディアンは、小さな村の小さな家…そこの長男として生まれた。
その村は独自の文化を持っていて、魔術師の家系も存在しない、まるで周囲から隔絶されたような場所だった。
家族は二人。母と、五つ年の離れた弟。父は弟が生まれる前に村から去っていた。つまりは家族を捨てたのだと彼が気が付いたのは、年が十を過ぎた頃だっただろうか。
「兄ちゃん、シディ兄ちゃん!」
「ラキス」
弟のラキスは、まだ当時十歳だった。シディ兄ちゃん、シディ兄ちゃん、と兄の後をよく着いて来ていたのを今でもよく覚えている。
「シディ兄ちゃん、どっかに行くの? 村の外?」
「ああ、まーな。ちょっと遠くまで行ってくるから、母さんの事よろしく頼むぞ!」
「うん、わかった! 行ってらっしゃい!」
髪をかき混ぜるようにぐりぐりと頭を撫でてやると、ラキスは満面の笑みで頷いてくれる。
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