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element story ―天翔るキセキ―
初めて会ったのは




ほとんどの人間が口を閉ざす、気まずい昼食を終えて。エルはカヤナに『念には念を入れて』休んで置くように言われ、早々に自分の部屋に戻った。

しかし特に眠気がある訳ではなかったので、エルはベッドに腰掛けて壁に寄りかかり、読みかけていた本を読む事にした。

栞を挟んでいたページから暫く読み進めていると、ふいに部屋の扉が軽くノックされエルは顔を上げる。

「――…エル、起きてる?」
「! シディさん…あ、あの、何か」
「入っても平気ー?」
「は、はい。もちろん」

意外な人物の登場に、エルは驚き。また意味もなく慌てた。エルもオブシディアンも普段はお互い積極的に関わる事がないのだ。

エルは彼より先に扉を開けて出迎えようと思ったのだが、急いで本を閉じた所でオブシディアンが自ら入室してきた。

「よっ。なに、本読んでたの?」
「は、はい。前にその、タイガさんがくださった本の内の一冊です」

オブシディアンは壁際に置いてあった椅子に座り、エルの持つ本に視線を向ける。

「『響界とは』…ね。懐かしいな。昔上司に『最低限の教養を身につけろ』って言われて読まされたんだよなあ」


エルは今から三年前、九歳の頃に親から捨てられた。その後間もなく響界に保護され、すぐに実験体にされた訳だが、どうやら彼女はそれ以前から一般的な教養を受けていなかったようで。タイガは彼女にいくつか本を買い与えていたのだ。

「ぼく、本当に何も知らなくて…あの、シディさんは覚えていらっしゃるか分からないのですが、あの頃のぼくは言葉も全然うまくしゃべれませんでしたし…」
「ああ、そうだったねえ。…初めてエルを見つけた時、全然しゃべらないからさ。かなり警戒心が強いのかと思いきや、触れても何も抵抗しないしで不思議だったんだよね」

「…え?」

「結局、理由は響界を出てから知った訳だけど」とオブシディアンは笑うが、エルの頭には疑問符が浮かぶ。

「あっ、あの、すみません。ぼく、シディさんと初めてお会いしたのは響界ではなかったですか?」
「え? …あれ、もしかして気付いてなかったの?」
オブシディアンは世間話の続きを話すように、エルの疑問に答える。


「…捨てられてたエルを拾ったのは、オレだよ?」
「…!!」

エルは彼の言葉に驚きを隠せない。そんな真実があったなんて想像だにしていなかったのだ。

「なんだ、てっきりそれでエルがオレを嫌ってるんもんだと思ってたのに」
「き、嫌ってなんかいませんよ…!」

言いつつも、エルは冷静になれない。確かに、捨てられていた自分を拾い響界へ連れて行ったのは断罪者<ジャッジメント>だという事は知っていた。だがそれがまさか、今目の前にいるオブシディアンだなんて思いも寄らなかったのだ。



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あきゅろす。
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