[携帯モード] [URL送信]

element story ―天翔るキセキ―
ココロ


「水のフェアトラークを回収した」

言い、タイガはベルク山で手にした青色の石を掲げる。目の前のエレメントクリスタルの中に漂っている、実体を持たない人形に向けて。

「………そうか」
「…?」

いつも毅然と振る舞っている人形の様子が、何故だか今日は違うように見えた。こちらの言葉への反応が鈍く、見下ろして来る表情にも余裕の無さが伺い知れる。

「何かあったのか?」
「……何の事だ」

タイガが思わず口にしたのは、人形を心配するような言葉。今の彼女は、普通の人間で例えるなら『元気がない』と表現するのに相応しかった。

人形は、胡乱げにこちらを見やる。自分の変化に自覚があるのか無いのか、これだけでは判断し難い。


「…いや、いつもより元気が無いように思えたんでな…」
「…元気が、ない? それは、ダレが? 私が、か?」
「あ、ああ…そうだ。お前だ」

人形の瞳が、虚空を見つめるようなものへと変わる。こちらを見ているようで、まるで見ていない。

今までとは違い、とても不確かで。とても頼りない声色。
間違いない、とタイガは確信した。

何かがあったのだ、確実に。今まで感情らしいものの片鱗すら見せて来なかった、この人形に。


(変えられる奴がいるとすれば)

それは、


「ロウラ……か?」
「…っ!!」

整った人形の顔が、驚き、そして忌々しげに歪む。その反応は…図星、という事だろう。


「…お前は、ロウラに対して何らかの感情を抱いたのか?」
「?! 感情…だと!? …馬鹿な事を言うな。そんな事は絶対にありえん! 私は女神イリスの人形なのだぞ!!」

反論が激しくなる。しかし声色は激しくなっても、その言い分は自分の都合の悪い事に無理やり目を瞑っているようにしか聞こえなかった。

いつになく情緒不安定な様子を見せる人形。その姿こそが、僅かでも彼女に感情が芽生えた証ではないだろうか。


「お前は知っているだろう? お前の片割れ…『器』と共にいる、あいつの事を」
「…今度は何だ」
「あいつは…あいつが生まれた十六年前から、ずっと成長を続けている。きっと今、俺が見ていない間にも、あいつの心は成長し続けている筈だ」
「…何が言いたい」

タイガは、十六年前に仲間達と保護した赤子を思い出す。彼と最後に会ったのは去年の集魔導祭で、気が付けばどうにも弱々しい性格に育ってしまっていたけれど。
その心は色々なもの、人に触れて、きっと今でも成長を続けているだろうとタイガは信じている。
この先、彼とも道を違える事になるだろうが。それでもタイガは彼が人として、成長している事を願っていた。


そして。目の前にいる、この少女にも。


「お前にも、その可能性があるんじゃないか?」

彼のように。

「普通の人間と同じように、感情を…『心』を持つ事がさ」


人形は、その言葉に目を見開いた。
ありえない、という否定の言葉。それは頭の中にはあったのに、何故だか口に出来なかった。




[*前へ][次へ#]

7/38ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!