[携帯モード] [URL送信]

element story ―天翔るキセキ―
『セフィ』




『――…もう、アッシュってば』

「!!」


ふいに聞こえた声に、アッシュはがばりと起き上がる。そしてすぐさま辺りを見回すが、そこには自分以外は誰もいなかった。


「………」

馬鹿じゃないか、と思う。『彼女の声を聞く』だなんて、夢としか考えられない。
自分は無意識に、カヤナやオブシディアンの言葉から『彼女』の事を思い出していたのだろう。


――…いや、違う。アッシュはかぶりを振る。


『彼女』の…セフィの事を、忘れた日なんてあるはずがない。ただ、普段はそれを強く意識しないようにしている。そうしなければ、彼女を亡くした喪失感と魔術師への憎しみが溢れて、狂いだしてしまいそうだから。


別に、彼女の雪辱を晴らす為なら狂っても良かった。が、今はその時ではない。狂いだしてしまうより先に、やるべき事があるからだ。

『頼むから、人を殺さないでくれ』

リーブの言葉を思い出す。つい最近、東ギルドマスターの件で釘を刺された時だ。

(あの野郎は…)

自分が魔術師を殺したい程憎んでいる事を、知っている癖に。だというのに、そんな言葉を吐く。セフィが死んだあの時も、リーブは自分の前に立ちはだかって来た。

殺しては駄目だ、と。そう言って。


(……)

『魔術師』という存在に、セフィは殺された。しかし、誰の前からも立ち去った自分とは違い、リーブは魔術師で在り続けた。

セフィが死んで数年後、再会しても未だ彼は魔術師で。それどころか、こう言って見せたのだ。


『この世界を変えたいんだ。魔術師だけが人の上に立ち、世界を牛耳ろうとする。

――…そんな世界の在り方そのものを、僕は変えたい』


――世界に絶望していた自分にとってはまるで信じられない、ありえない宣言だった。

けれどリーブは本気だった。いや、昔から意志だけは人一倍強い奴だったとアッシュは思う。一度決めた事は、貫き通す。それがあいつの長所でもあり、面倒な部分でもあるのだ。


(……)

アッシュは連結魔道具を取り出し、蓋を開いてリーブとの連結をする。

『どうしたんだい?』
「…問題が起きた」
『…? …何かあったのか?』

さもどうでもよさそうな声で、しかし問題が起きたと言うものだからリーブは戸惑った様子だった。だがアッシュはやはり我関せずといった調子で、さっさと用件を済ませようとする。

「知らねぇよ。詳細はクソカヤナにでも聞け」
『は? お、おい? 全く状況が掴めないんだが』
「うっせぇ黙れ。伝えてやっただけありがたいと思いやがれクソリーブが」
『あ、おい!』


一方的に連結を切って、アッシュはまたベッドに寝転がる。もう何も考えず、ただ目を閉じた。



[*前へ][次へ#]

6/38ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!