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element story ―天翔るキセキ―
精霊のちから―2

前触れなく、洞窟内を地響きが襲った。
いや――正確には洞窟よりさらに下、海底からそれは伝わってきていた。

「っ?!!」
「わっ……ぅわわ!?」

突然の揺れによろめく二人。
シングは尻餅をついたリピートに手を貸しつつ、周囲の状態を確かめた。

「まずいな……この洞窟全体が崩れようとしてる」
「な……なんでそんないきなり……!」
「今はそれを考えている暇は無いな……」

天井が少しずつ、崩れ始めている。まごまごしていたら五分もしない内に生き埋めになってしまうだろう。
……それまでに、どうにかしなければ。

(洞窟の出口まで戻るのは無理だ)

せいぜい先程アリア達と話した所までが限界だろう。其処に着いた所でどうにもならない。しかも、いつ地面が崩れるかも分からないのだ。

(アリアもセイルも、ロックもいないこの状況下で)
ここから脱出する方法は……!!

「……そうだ」
「何か思い付いたんですなっ!?」
シングは、自分を心配そうに見つめていたリピートに頷いて。

「妙案とは言い難いけどな。正直博打だ。……でも此処で死にたかないだろ?」
「もちろんですな!」

リピートの強い言葉によし、と再び頷く。

「アリアは恐らく、水の精霊ウンディーネの力を借りる筈だ」

精霊の力を借りる『耀術(ようじゅつ)』のウンディーネの術の中に、水に属するあらゆる障害を打ち消す事が出来るものがある。
これを使えば、ロックと同じように水中でも呼吸をする事が可能なのだ。
耀術の素養があるアリアなら、恐らくこの術の使用を試みるとシングは踏んでいる。

そう、全ては仮定。シングが『アリアならこの行動を取る』と予想しているだけの話だ。
向こうで起きているかもしれない想定外の事態、その可能性を全て排除して導き出した仮定なのだ。

「だからオレ達は、体内の水のエレメントを空気中に発現させる事でアリアの支援をする。これは術式構築の要領でな」

魔術や耀術は、同属性のエレメントが多い場所では通常より強い力を発揮する。例えば山なら土、海なら水属性の術が強力であるというように。

幸いにも、ここ一帯には水のエレメントが充満している。
これに加えて自分達の体内のエレメントを空気中に送れば、アリアの術式構築が幾ばくか楽になる筈だ。

「むっ無茶ですな!」

シングの穴だらけの案にリピートは声を上げた。

「アリアがその術を使うとも限らないし、体内のエレメントを消費するのはキケンなんですなっ!」

術を使わずに体内のエレメントを消費する事は、実際問題かなり危険な行為である。
深く考えずとも当たり前だ。体内の、生きる為に必要なエネルギーを消費しているのだから。

術を行使した場合は、術式構築の際に体内エレメントを消費するものの、術の効力が消えた時使用した量の半分程のエレメントが体内に返ってくる為、ある程度消費を抑える事が出来るのだが……。
術を使用せずに、自力でとなると話は別だ。

空気中に送ったエレメントは返って来ないのに加え、エレメントは人体を構成し、人の生命活動に必要不可欠な物。
消費し過ぎれば死ぬのだ。


「だぁから言っただろ。博打だって」

「それにそれにっ、もしもアリアが術を使えない状態だったらどうするんですな! 魔物に襲われて怪我してたらッ」

「それは無い。アリアに限って」

アリアには絶対の自信と、それに見合う実力がある。
ちょっとやそっとの怪我では戦闘不能という事態には陥らない。

「例え負傷したとしても、あいつは怪我くらいで『術を使わない』という選択はしない。
……術を試みなければ、此処で死ぬしな」
言い、シングは諭すように優しく問いかける。

「…それにリピート、よく考えてみろよ。セイルが一緒に居るんだぜ? あの人一倍、負けを嫌うセイルが。あいつが一緒に居て怪我をするなんて事は無いさ」

「…確かに」

『負け』を嫌う。それは人に対しても、魔物に対しても同じなのだ。
そんなセイルの性格は、リピートもよく知っている。だからか、自然と納得していた。


「よし、やるぞ」

「うぅ〜…。やるしかないですな?」

「さっきお前、こんなとこで死にたくないよなって言葉に同意してただろ。……ほら、エイエイオー」

元気付けるように、しかし少し茶化すような声色で、掛け声に合わせて握り拳を上げた。
それを見たリピートはまたしても口を尖らせて。

「……コドモ扱いしないで欲しいですな……」

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あきゅろす。
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