element story ―天翔るキセキ―
姉の願い
「――…お願いよ、ロウラ……わかって」
しばらく、似た口論が続いた。
正論を告げるカヤナと、希望を持つロウラ。
ロウラの様子はまるで、わがままを通そうとする幼児となんら変わらない。そんな風に、カヤナには見えてしまう。
対してロウラは、なぜ姉が自分の気持ちを理解してくれないのか、少しも耳を傾けてくれないのか。怒りではなく、何より分かり合えない悲しみに襲われた。
けれど、それを悲しんでいるのはロウラだけではなかった。ずっと正論をぶつけていたカヤナもまた、自分の気持ちを分かって貰えない事に、悲しみを覚えていた。
心が幾度も殴りつけられたように痛くて、苦しくて、たまらなかったのだ。
その事にロウラは、今までとは違う姉の寂しげな声を聞いて、ようやく気付いた。
「……もし、貴方がいなくなってしまったら。…私は駄目になっちゃうの。そんな未来を想像しただけで、肩の震えが止まらなくなって。息も出来なくなるの。私にとって、ロウラ。貴方はなくてはならない存在なのよ」
言って、カヤナは自分の身体を掻き抱く。今、まさにその最悪な未来を想像しているのか、その言葉通り身体は小刻みに震えていた。
「…おねえちゃん…」
ロウラは、いつも毅然としている姉が見せる弱い姿を初めて目にして、もはや何も言えなかった。
「エルだって、助かったから良かったけれど…、もし死んでしまっていたら。ベリルは今の私のようになっていたでしょう。…もし、そうなっていたら。
…貴方は、その責任が取れた?」
「…!」
姉の弱々しい姿を見て初めて、ロウラは今一度問われた『責任』という言葉に、どれだけ重い意味があったのかに気付いた。
「誰かがいなくなってしまったら、必ずそれを悲しむ人がいるの。大切な人に、もう二度と会えなくなったら…もう二度と話す事も、大好きな笑顔を見る事も出来なくなったら……。
残された方は、たまらなく…辛いの」
「だから、ロウラ…お願い」と。カヤナは哀願する。悲痛なほどに大きな想いを、伝えていく。
「…危険な所には…、もう…行かないで…」
――…その願いを、否定する事なんて出来やしなかった。
ロウラは、姉の願いを受け入れて。頷く事しか、できなかった。
「……」
「…んー。取り込み中だなー」
カヤナ達のいる部屋の外。扉のすぐ傍にアッシュは立ち尽くしていた。傍らにオブシディアンもいるが、それは彼にとってはどうでもいい。
ベルク山から回収したフェアトラークをタイガに任せて、一足先に家に戻って来たら…これだ。
ただ単に、通りかかったら声が偶然聞こえて来ただけの話。いつものように他人の事など無視して、部屋に戻ろうとしたのだが。
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