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element story ―天翔るキセキ―
人形の真意

「エルの傷が、虹色の光によって治癒された。…それはつまり、この子の傷を治したのが、彼女である事を示しているわ」

「…!!」

ベリルの結論に、カヤナもロウラも驚きを隠せなかった。『彼女』、その正体は紛れもない、エルを傷つけた張本人であるあの人形に他ならないからだ。


「……あの、ごめんなさい。…ぼく、あの時。右腕に刺さっていた破片が消えた瞬間、不思議な感覚がしたんです。その、…あたたかく、包み込むような」
「…!」

そうして、傷口の痛みは次第に消えていったのだと。エルがそう語った時、カヤナも思い出す。

(エルを抱き上げた時…)

ほぼ平静を失っていて気が付かなかったが、あの時確かにエルの出血は止まっていたのだ。


「どうして彼女が、エルの傷を治療しようとしたのかは分からないけれど…」

ベリルはそう言ったが、カヤナの頭の中にはひとつの予想があった。いや、彼女にとっては予想ではなく、もはや確信に近いものがあった。


「…あの人形は…きっと私達を嘲笑っていたのよ。もう傷は治ったのに、それに気付かず右往左往していた私達を。愚かな人間が焦っているのを見て、滑稽だと嘲笑っていたんだわ。

…それ以外、考えられない」

「…!!」

憎しみの籠もった声。ロウラは思わず姉を見上げた。姉の表情は不愉快だとばかりに歪み、瞳は限りない怒りを宿していて。その言葉が本心から出ていると嫌でもわかってしまう。

「カヤナ…」
ベリルはそんなカヤナに何も言う事が出来ない。
…今の彼女は、冷静な判断が出来なくなっている。そうでなくとも、元々ロウラがあの人形と会うのに断固反対していたのだ。

今回の事件で、弟は無事だったけれど。その代わりにエルが傷ついてしまった。傷は治り、跡形もなく消え去ったけれど。『あの人形が人を傷つけた』という事実は、消え失せてはくれないのだ。

(私だって…)

大事に至らなかったから平静を保っていられるのだ。もしエルが、傷を負ったまま…目を覚まさなかったら。もしも、最悪の事態が起きていたら。

――…絶対に平静なんかではいられない。想像しただけで、足元から崩れ落ちてしまいそうになる。

だからベリルにとってカヤナの怒りは納得出来た。だからベリルは、カヤナがあの人形を憎むのを咎めることは出来ないのだ。

(ただ…――)

ベリルは、ちらりとロウラを見る。ロウラは酷く傷ついた表情で姉を見上げていた。



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あきゅろす。
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