element story ―天翔るキセキ―
『人間』と『人形』の違い
――謎の孤島 滝の裏の家
「どういうこと!?」
普段は落ち着いている姉の、いつになく大きな声にロウラはびくりと反応する。俯いていた顔を恐る恐る上げて様子を伺ってみるが、予想通り姉は苛立ちを隠せない様子で目の前のベリルに詰め寄っていた。
「カヤナ。気持ちは分かるけれど、落ち着いて」
「……ごめんなさい。どうかしていたわ」
僅かな間を置いて、カヤナは親友に詫びる。彼女に怒る意味などひと欠片もなく、今はただ当たり散らしていただけだと気付いたからだ。
「とりあえず、二人とも座って」
「ええ…」
「…うん」
カヤナは複雑そうな表情で、ロウラは暗く沈んだ顔でそれぞれ座る。
ベリルはそんな二人と対面するように座り、近くのベッドに横たわるエルに視線を向けた。
「…ベリルさん…カヤナさんに…ロウラ。…ごめんなさい。ご迷惑を、おかけしました」
「迷惑なんかじゃないわ。あなたは何も悪くないのよ」
「そうよ。貴方はロウラの命の恩人なんだから」
ベリルやカヤナの言葉に、しかしエルは歪めた表情を崩さない。「…でも…」と申し訳なさそうに、言いにくそうに切り出す。
「もう…怪我…跡もありませんし…だから…その」
言いよどむエルは、上体を起こして自分の右腕に手を当てる。そこはつい先刻、あの人形の魔術によって傷つけられた筈だった。
――…そう。筈、だった。
今見れば、エルの細く白い腕には傷跡すらなかったのだ。まるで初めから、そんな傷など存在しなかったかのように。
…カヤナとロウラがエルを連れてベリルの元に着いた時。その頃は、まだ痛々しい傷はあったのだ。しかし、エルをベリルに任せ一旦カヤナ達が退出して、今こうしてベリルに呼ばれるまでのたった五分。そのたった五分の間に、エルの傷は跡形もなく消え去っていた。
「エルの傷口は、虹色の光に包まれて。そのまま見る見るうちに消えていったの。そうしてエルの傷を治した後、虹色の光は空気に溶けるように消滅したわ」
――呼ばれて開口一番、そう言われ。カヤナが思わずどういうことかと詰め寄った。人形の元を去ってから今までのいきさつはこんな所だ。
「…エレメントには『生み出す』力がある。本来なら、それぞれの属性に沿ったものが創造される筈なの。火なら火、水なら水に関する自然物…もしくは全てを少しずつ宿した人間ね」
そうしてこの世界はエレメントによって創られ、全ての生物はエレメントによって庇護される形で生まれたのだとベリルは言う。
「でも虹色の光は違う。虹色は万物を示す。女神とその眷属…彼女達の色なの。だから私達人間と彼女達は、身体のつくりから何から何まで違うの」
肉体をエレメントの受け皿として、精神…心は生まれた時の体内エレメントによって生成され、成長とともに育まれるのが人間。
肉体をも虹色のエレメント――…女神のエレメントによって構成され、精神を持たないのが彼女達『人形』。
人形達に関しては、あくまでベリルの個人的な見解ではあるが。自分達人間との差はそこにあると言う。
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